ひょうけんの魔術師。 男塾鎮守直廊三人衆

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ひょうけんの魔術師

所有属性・水。 村の英雄の魂が宿るとされる水を常に携帯している。 術の発動はこの水を起点に行われる。 『20歳になった者は修行のため村を出なくてはならない』 という慣習に倣い村を出た。 <その他の情報> 弱いモノいじめが嫌い。 言葉遣いは悪いが、良い奴。 『アペルダ』の宿屋で働いている。 街に帰る途中、イーガス率いる盗賊に襲われる。 盗賊の首領で『アペルダ』に帰る途中だったエリスに目をつける。 <その他の情報> 筋肉質で斧を武器にしている。 所有属性・土。 組織『ケルダン』のリーダー。 『ケルダン』のメンバーを増やすため古典魔術師を探している。 <その他の情報> 丁寧な言葉遣い。 術者として高い能力を保有。 」 エリス「ちょっと……何ですかあなた達。 」 イーガス「見てのとおり、盗賊だ。 」 ガル「ん? なんだ?」 エリス「やめて!! 離して!!」 イーガス「盗賊が止めろと言われて止めるわけ無えだろうが! 金になりそうなモンは全部頂いていくぜ!」 エリス「返して!! 返してよ!!」 イーガス「うるせえ奴だ!! このっ!!」 エリス「きゃっ!!」 イーガス「大人しくしてりゃあ命だけは助けてやるぜ! はっはっは!」 ガル「……おい。 」 イーガス「野郎ども! とっととしろ! チンタラしてんじゃねえぞ!」 ガル「おい。 無視してんじゃねえよ。 」 イーガス「あぁん!? なんだテメェ。 」 ガル「コイツ、嫌がってるじゃねぇか。 」 イーガス「テメェ……この女の知り合いか?」 ガル「いや、今初めて会った。 」 イーガス「だったら引っ込んでろ。 俺の斧で真っ二つにするぞコラァ!!」 ガル「弱い奴ほどよく吠えると言うが……本当だな。 」 イーガス「何だと!!」 ガル「間違っちゃいねぇだろ? 俺はな、弱いくせに弱い者いじめってのが気にいらねぇんだよ。 」 イーガス「この野郎……! この人数に喧嘩売ったことを後悔させてやるよ!」 ガル「後悔するのはそっちだ。 『我が命 めい のもと 刃 やいば を模 かたど り 糧となれ』 『氷斬剣 ひょうざんけん 』!!」 エリス「え……?」 イーガス「水が固まって剣になった……!?」 ガル「どうした? 怖気づいたか?」 イーガス「そんなわけねえだろうが!!」 ガル「お前の後ろの連中は震えてるみてえだが?」 イーガス「ひ、怯むな!! 相手は所詮1人、俺達の敵じゃねぇ!!」 ガル「威勢の良さだけは認めてやるよ。 」 イーガス「う、うらああぁあああぁ!!」 == ガル「ふぅ……だいたい片付いたな。 」 エリス「…………。 」 イーガス「おい! お前らしっかりしろ! たった1人相手に何やってんだ!!」 ガル「予想はしてたが、こんなもんか。 残るはお前だけだ。 」 イーガス「この野郎……。 」 ガル「自慢の斧で俺を切るんだろ?」 イーガス「……くっ、覚えてろよ。 」 ガル「逃げた!? 待ちやがれ! ……行っちまったか。 」 エリス「 呆然 」 ガル「まあいいか。 ……おい!」 エリス「え、は、はい!?」 ガル「コレ、アンタの荷物だろ?」 エリス「あ……ありがとうございます。 」 ガル「それじゃ。 」 エリス「あ、あの!」 ガル「ん?」 エリス「何かお礼がしたいんですが……。 」 ガル「そう言われてもな……あ、そうだ。 」 エリス「?」 ガル「この辺に食料が買える街ねぇか? アンタがここに居るってことは街が近くにあるんだろ?」 エリス「ええ、ありますよ。 」 ガル「じゃあそこに案内してくれ。 」 エリス「は、はい。 」 == イーガス「はあ……はあ……なんだったんだ、あのガキは。 氷の剣とか化け物かよ……。 」 サヴァス「 氷の剣……? すみません。 その話、もう少し詳しく聞かせて頂けませんか?」 イーガス「あぁ!? 誰だテメェは!? まさかさっきの奴の仲間か!? ぶった切ってやる!!」 サヴァス「落ち着いてください。 私はただの通りすがりです。 その氷の剣について聞きたいだけです。 」 イーガス「なんでテメェなんかに……。 」 サヴァス「その人物は、なにか呪文のようなものを口にしていませんでしたか?」 イーガス「なんでそれを知ってんだよ!?」 サヴァス「……やはりそうですか。 」 イーガス「おいおいテメエはなんなんだよ! やっぱりアイツの仲間なんじゃねえのか!? あぁ!?」 サヴァス「先程も言いましたが、ただの通りすがりですよ。 その人物はおそらく、水使いの古典魔術師でしょう。 」 イーガス「古典魔術師? なんだそれ?」 サヴァス「おや、耳馴染みの無い言葉でしたか。 まぁお気になさらず。 しかし……大変興味深い。 貴方、名前は?」 イーガス「……テメエの名前から聞かせてもらおうか。 」 サヴァス「これは失礼しました。 サヴァスと申します。 」 イーガス「……イーガスだ。 」 サヴァス「イーガスさん、私と手を組みませんか?」 イーガス「は?」 サヴァス「貴方は再びその人物に会いに行くのでしょう?」 イーガス「あたりめぇだ!! 今度こそ奴を潰す!!」 サヴァス「私も協力いたしましょう。 」 イーガス「……何を企んでいる?」 サヴァス「企みなんてありませんよ。 その人物に興味があるだけです。 」 イーガス「……お前、強いのか? そんなひょろい体して。 」 サヴァス「ええ。 私がどうこう言うよりも見て頂いたほうが早いでしょう。 」 イーガス「?」 サヴァス「『土よ 我に応え 槍となれ』」 「『エルダ・スピール』!!」 イーガス「つ、土が槍になった!?」 サヴァス「どうでしょうか? 私の言葉を信用していただけますか?」 イーガス「あ、あんた一体何者なんだよ!?」 サヴァス「通りすがりの古典魔術師ですよ。 」 == ガル「どのくらいで街に着くんだ?」 エリス「そんなに掛かりませんよ。 そういえばまだ名乗ってませんでしたね。 私はエリスと言います。 」 ガル「ガルだ。 」 エリス「ガルさん、助けて頂いてありがとうございました。 」 ガル「気にするな。 俺がやりたくてやったことだ。 」 エリス「でも助けてもらわなかったら、私、どうなっていたか……。 本当に、本当にありがとうございました。 」 ガル「だからもう良いっていってんだろ。 さっきからそれしか聞いてねえぞ……。 」 エリス「でも……。 」 ガル「はぁ〜……。 分かった。 好きにしてくれ。 」 エリス「はい!」 ガル「ところで盗賊に襲われたのは初めてか?」 エリス「ええ……別の街に届け物があって、その帰りにたまたま遭遇してしまって……。 」 ガル「なるほど。 次からは気をつけるんだな。 」 エリス「そうします……ところでガルさん、今晩泊まる所は?」 ガル「決まってない。 お前の街に着いてから考える。 」 エリス「でしたら私の宿に泊まりませんか? お代は要りません。 助けて頂いたお礼がしたいんです。 」 ガル「そういうつもりで助けたわけじゃない。 」 エリス「ですが何もしないというのは……。 」 ガル「……分かった。 一晩だけ貸してくれ。 」 エリス「ありがとうございます!」 ガル「はぁ……。 」 エリス「あの…………。 」 ガル「今度はなんだ?」 エリス「さっきの剣……どこから出したんですか? じつはずっと気になってて……。 」 ガル「ああ、あれか。 この瓶の水を凍らせて作った。 」 エリス「凍らせて……?」 ガル「そう、凍らせて。 」 エリス「…………。 」 ガル「…………。 」 エリス「どうやって?」 ガル「だからこの水を凍らせて……。 」 エリス「 遮る だから! どうやって凍らせたんですか!?」 ガル「え? あぁそうか、古典魔術は村の外じゃ珍しいのか。 」 エリス「古典魔術?」 ガル「そ、古典魔術。 自然の力を利用した魔術の総称。 そして俺は水使い。 」 エリス「水使い……。 その力で凍らせたんですか?」 ガル「そういうこと。 」 エリス「世界は広いんですね……。 」 ガル「世界が知りたいなら、お前も旅をしてみればいい。 」 エリス「私は宿屋の仕事がありますし、 それに1人で旅に出て襲われたらさっきみたいに……。 」 ガル「無理強いはしねえよ。 でも世界を広げる方法なんていくらでもある。 」 エリス「……ガルさんは大人ですね。 」 ガル「そんな事ねえよ。 ところで街はまだか?」 エリス「もうそろそろ……あ、見えてきましたよ。 あれが私の街『アペルダ』です。 」 ガル「人の出入りが多い……活気があるんだな。 良い街だ。 」 エリス「気に入ってもらえたようで嬉しいです。 陽の高いうちにお買い物を済まされてはどうですか?」 ガル「そうだな。 どこに行けば店がある?」 エリス「この通りをまっすぐ行ってください。 ちょうど市 いち で賑わっている頃だと思います。 」 ガル「了解。 」 == サヴァス「ここが『アペルダ』ですか。 市 いち も賑わっていますし雰囲気もいい……。 」 イーガス「そんな事いまはどうでもいい! それより奴を探さねえと!」 サヴァス「しかし本当にこの街に居るんですか?」 イーガス「俺がやられた場所から一番近い街がココなんだ。 旅をしてる風だったからな。 絶対 ぜってー ココに居る!」 サヴァス「なるほど……。 」 イーガス「……あ! 居やがった!」 サヴァス「どこですか?」 イーガス「リンゴの品定めしてるガキだ! あの野郎……呑気に買い物なんてしてやがる……!」 サヴァス「あの古典伝承品……水使いで間違いなさそうですね。 」 イーガス「こうしちゃいられねえ!! いますぐぶっ潰しに……!!」 サヴァス「待ってください。 」 イーガス「あ!? 離せよ!!」 サヴァス「こんなに人が多い所で争いを起こしてもメリットがありません。 彼が市場 いちば から離れたところで声を掛けましょう。 邪魔が入るのは不本意ではありませんか?」 イーガス「そりゃそうだけどよ……。 」 サヴァス「ならばその時を待ちましょう。 」 イーガス「……けっ! 分かったよ!」 == ガル「活気のある市場 いちば だったな。 手頃な保存食も買えたし、数日はもつだろ。 」 イーガス「よぉ、ガキ。 」 ガル「……誰だ?」 イーガス「さっき会ったばっかりだろうが! この斧が目に入らねえか!!」 ガル「…………あー、お前か。 」 イーガス「コイツ、ほんとに忘れてやがった……!」 ガル「弱いヤツのことなんていちいち覚えてられっかよ。 またやられにきたのか?」 イーガス「そいつはどうかな。 」 ガル「あ?」 サヴァス「はじめまして。 」 ガル「誰だお前。 」 サヴァス「ただの通りすがりですよ。 」 イーガス「さっきは油断したが今度は負けねぇ!! うぉおおおおお!!」 ガル「よっと。 」 イーガス「こらぁ!! 避けんじゃねえよ!!」 ガル「斧が迫って来たら避けるに決まってるだろ。 」 イーガス「さっきの剣はどうした!? 俺はなぁ、アレをぶっ壊すって決めてんだ!!」 ガル「逆恨みにも程がある……。 まぁいい。 相手してやるよ。 『我が命 めい のもと 刃 やいば を模 かたど り 糧となれ』 『氷斬剣 ひょうざんけん 』!!」 イーガス「おおおおおおお!!」 ガル「また真正面から斧を振りおろすだけか。 同じ手が通じるわけ……。 」 サヴァス「『その姿 礫 つぶて となりて 的 まと を撃て』」 「『ペドラ・シュート』!!」 ガル「土の弾!? くそっ……!」 サヴァス「転んで避けましたか。 でも……。 」 イーガス「もらったあああ!!」 ガル「くっ……!」 イーガス「コケた姿勢でよく防いだな。 だが片腕で俺の斧を支えられると思うなよ!」 ガル「……ならば受け流すまでだ。 地面に向けて ふんっ!!」 イーガス「な!? 刀を地面に!?」 サヴァス「ほぅ……。 」 イーガス「ちくしょう、斧まで地面に!! 抜けねぇ……。 」 ガル「歯食いしばれ! 拳を作って うぉおおおりゃあああ!!」 イーガス「ごはっ!!!」 ガル「はぁ……はぁ……。 」 サヴァス「お見事です。 きちんと基礎鍛練を積んでおられるのですね。 剣を敢えて捨てることで反撃の機会を得る。 なかなか出来るものではありません。 」 ガル「あんた、何者だ!」 サヴァス「またどこかで私達と会う日が来るでしょう。 その日まで、さようなら。 」 ガル「…………。 」 =宿屋= エリス「あ、ガルさんお待ちしてました……ってどうしたんですか!? 土まみれじゃないですか!?」 ガル「あぁ……転んだだけだ。 大したことはない。 」 エリス「怪我してるし……手当しますね。 」 ガル「いいよこれくらい。 」 エリス「ダメです! じっとしててください!」 ガル「……ああ、分かった。 」 エリス「…………。 」 ガル「…………なあ、この街じゃ古典魔術って珍しいんだよな?」 エリス「はい。 ガルさん以外に見た事も会った事もありません。 」 ガル「そうか……。 」 エリス「……これでよし、と。 治療終わりました。 」 ガル「サンキュ。 部屋の鍵もらえるか?」 エリス「どうぞ。 」 ガル「ここから次に近い街はどこだ?」 エリス「ここからだと……『バルテラ』ですね。 鍛冶屋さんが多い所で、西に進むとあります。 」 ガル「分かった。 朝になったら起こしてくれ。 」 エリス「はい。 」 =ガルの部屋= ガル エリスの話だと、古典魔術はこの街だと珍しい……。 だが、あの男はおそらく古典魔術師……土使い……。 アイツはいったい……。 とりあえず今は寝よう。 明日起きたらバルテラを目指す。 == イーガス「次回予告。 」 エリス「バルテラ。 そこは鍛冶屋が集う街。 」 サヴァス「そこでガルは1人の少年に出会う。 」 ガル「次回 プリマベイル第2話『武器使い』」 サヴァス「旅はまだ始まったばかり……。 」 第2話に続く ------------------------------ 作者:日陰 なにかあればこちらまで。 サイト掲載日:H25年5月3日.

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ひょうけんの魔術師

ある夕がた、名探偵 明智小五郎 ( あけちこごろう )の少女助手、 花崎 ( はなざき )マユミさんは、中学一年のかわいらしい少女ふたりと手をとりあって、さびしい原っぱを歩いていました。 畑があったり、林があったり、青い草でふちどられた小川がながれていたり、その上にむかしふうの 土橋 ( どばし )がかかっていたりして、まるで、いなかのようなけしきですが、ここは、いなかではなく、東京都 世田谷 ( せたがや )区のはずれなのです。 マユミさんにつれられているふたりの少女は、 淡谷 ( あわや )スミ子と 森下 ( もりした )トシ子という、おなじ中学の同級生で、淡谷さんのおうちがこの近くにあるので、きょうはマユミねえさまと森下トシ子ちゃんをおまねきして、三人で、この原っぱへさんぽに出たのです。 スミ子ちゃんもトシ子ちゃんも算数がとくいで、ものごとを、すじみちをたてて考えることがすきでした。 ですから、読みものとしては、探偵小説がすきなのです。 悪人が、いろいろなトリックをつかってだまそうとするのを、知恵の力でみやぶるのが、おもしろくてたまらないのでした。 それに、スミ子ちゃんもトシ子ちゃんも、スポーツがとくいで、同級の男の子たちにも負けないくらい、かっぱつな少女でしたから、どうかして、マユミさんのような、少女探偵になりたいと思ったのです。 さいわい森下トシ子ちゃんのおねえさまが、マユミさんのお友だちを知っていましたので、そのおねえさまに紹介してもらって、なかよしの淡谷スミ子ちゃんといっしょにマユミさんをたずね、弟子にしてくださいと、もうしこんだのです。 「まあ、あなたがた、ゆうかんね。 中学一年じゃ、まだはやいわ。 それに、おとうさまやおかあさまが、おゆるしにならないでしょう?」 「いいえ、うちのおとうさまは、明智探偵のファンなのよ。 その明智探偵の弟子のマユミさんの、またその弟子になるのですから、おとうさま、きっとゆるしてくださるわ。 」 森下トシ子ちゃんがいいますと、淡谷スミ子ちゃんも口をそろえて、 「うちでは、ずっとまえに、宝石やお金がたびたびなくなることがあって、泥坊はうちのものかもしれないというので、警察にいわないで、明智先生に相談したことがあるんです。 すると、明智先生がうちへいらしって、みんなをしらべて、すぐに犯人を見つけてくださったのよ。 うちのじいやに悪いむすこがあって、その人がぬすんでいたのです。 じいやが、むすこをかばって、かくしていたので分からなかったの。 明智先生は、そのじいやのむすこによくいいきかせて、改心させてしまいなすったのよ。 ですから、うちのおとうさまも、明智先生の大ファンなの、きっとゆるしてくださるわ。 」 ふたりとも、一生けんめいにたのむものですから、マユミさんもこんまけして、明智探偵に相談したうえ、とうとうお弟子にすることを、しょうちしました。 しかし、それには、約束があったのです。 学校の時間中は、けっして探偵のことを考えないこと、宿題をなまけないこと、あぶない事件や夜の事件には、つれていかないこと、そのほか、おとうさまやおかあさまを心配させないような、いろいろな約束をきめたのでした。 ふたりが、マユミさんのお弟子になってから、まだなにも事件がおこりません。 ときどき、明智探偵事務所へマユミさんをたずねて、てがかりのみつけかたや、ふしぎな事件のなぞのときかたや、あぶないめにあったときに、身をまもる心がけなどをおそわっていました。 たびたび探偵事務所へいくので、明智探偵や小林少年ともしたしくなり、明智先生から、知恵のはたらかせかたのおもしろいお話を聞かせてもらうこともありました。 あんなにあこがれていた、明智先生や小林少年とお友だちみたいに話ができるので、ふたりはもううれしくて夢中なのです。 淡谷スミ子ちゃんと森下トシ子ちゃんが、いま、マユミさんといっしょに、この原っぱをさんぽしているのは、そういうあいだがらになっていたからです。 「もうじき、日がくれるわね。 帰りましょうか。 」 マユミさんがいいますと、淡谷スミ子ちゃんは、 「ええ、でも、もうすこし。 マユミねえさま、あの林のむこうに、へんなうちがあるのよ。 それを見て帰りましょうよ。 ほら、ここからも見えるわ。 ね、塔みたいな屋根が見えるでしょう。 」 スミ子ちゃんが指さすほうをながめますと、林の木の上から、ふるい西洋の写真にあるような、スレートぶきの、とんがり帽子のような屋根が、空にそびえていました。 「まあ、古城の塔みたいね。 こんなさびしいところに、どうして、あんなたてものがあるのでしょう。 」 マユミさんが、ふしぎそうにいいました。 「おとうさまから聞いたのよ。 むかし、 丸伝 ( まるでん )という、日本一の大きな時計屋さんがあったんですって。 その時計屋さんが、こんなさびしいところへじぶんのうちをたてて、屋根の上に時計塔をつくったんですって。 いまは、だれも住んでいないあき家なのよ。 このへんの人は、時計やしきとか、お化けやしきとかいって、こわがっているんです。 でも、お化けなんているはずがないわね。 あたし、ちっともこわくないわ。 」 スミ子ちゃんは、スポーツのすきな少女らしく、ほがらかに笑ってみせるのでした。 そんなことを話しながら歩いているうちに、三人は、いつのまにか、林の中にはいっていました。 その林のむこうに、時計やしきがあるのです。 林の木のあいだから、赤れんがのふるいたてものが、ちらちらと見えてきました。 林をぬけ出ると、草のぼうぼうとのびた原っぱのまん中に、その時計やしきが、怪物のようにたっていました。 きみょうなたてものです。 ぜんたいが赤れんがで、二階だての西洋館ですが、その二階の屋根の上に、大きな時計塔が、そびえているのです。 「まあ、大きな時計ね。 高いから小さく見えるけれど、あの文字ばんは、直径五、六メートルもあるわね。 針はもう動いていないのでしょう。 ちょうど三時をさしているわ。 この針がとまったのは、昼間の三時でしょうか、夜中の三時でしょうか。 」 マユミさんは、すこし青ざめた顔をして、きみわるそうにいいました。 よく見ると、そのたてものの赤れんがは、ほうぼうがかけていて、きずだらけです。 そして、いちめんに、青いこけがはえています。 丸伝という時計屋さんは、よほどかわった人だったとみえて、じつにふしぎなたてものです。 すみのほうに、れんがの円塔がくっついていたり、たてものぜんたいがでこぼこで、屋根も、いくえにもかさなりあっていて、むかしの西洋のお城みたいな感じです。 窓はみんな小さくて、部屋の中は、昼間でも、うす暗いにちがいありません。 あき家だというけれど、なにかへんなものが住んでいて、いまにも、あの小さな窓から、ひょいと顔を出すのではないかと思うと、いよいよきみがわるくなってきます。 「もう、帰りましょうよ。 日がくれるわ。 ごらんなさい、むこうの空が、まっ赤に夕やけしてる。 まあ、きれい。 」 マユミさんは、うしろをふりかえって、林のむこうの空をながめました。 西の空は、いちめんの血のような色にそまっていました。 それが、前の時計やしきに反射して、赤れんがのたてものが、まるでよっぱらいの顔のように、きみわるく見えるのでした。 そのとき、森下トシ子ちゃんが、なにを見たのか、ギョッとするような声をたてました。 「アラッ! ごらんなさい。 あそこ。 時計塔の屋根の上よ。 ほら、なんだか動いている……。 」 夕やけをうけて、大時計の文字ばんも、うす赤くかがやいていました。 その上にそそりたつとんがり帽子みたいな屋根のてっぺんの 避雷針 ( ひらいしん )の鉄の柱のねもとに、なにものかが、うごめいているのです。 「アラッ! 人間だわ。 どうして、あんな高いところへのぼったのでしょう。 」 「でも、まっ黒な羽根のようなものが、ひらひらしてるわ。 人間かしら? なんだか大きなこうもりみたいよ。 」 スミ子ちゃんとトシ子ちゃんは、口々にそんなことをいって、じっと、塔のてっぺんを見つめていました。 そのあやしいものは、避雷針の鉄の柱をつかんで、とんがり屋根をはいあがり、やがて、そのてっぺんに、スックと、たちあがりました。 巨大なこうもりです。 いや、こうもりのような人間です。 まっ黒なシャツをきて、はばのひろい黒マントをはおっています。 片手で鉄の柱をにぎり、片手をあげて、そのマントをひらひらさせているのです。 まるで、巨大なこうもりが、はばたいているように見えます。 遠いので、顔はよくわかりませんが、きつねの目のようにつりあがった黒めがねを、かけています。 鼻の下には、黒い口ひげが、ぴんとはねているようです。 そして、あたまには、黒いふさふさした髪の毛のあいだから、白い 角 ( つの )が二本、ニョキッとはえているではありませんか……。 角のあるこうもり男です。 あの古い古い赤れんがのたてものの中には、こんな恐ろしいこうもり男が、住んでいるのでしょうか。 三人とも、しっかりした少女ですが、でも、時計塔の上で、はばたいている、いようなこうもり男を見ると、心のそこから、ゾウッとしないではいられませんでした。 「はやく帰りましょう。 あんなもの、見ちゃいけないわ。 ね、はやく帰りましょうよ。 」 マユミさんが、ふるえ声で、ふたりをうながしました。 むろん、スミ子ちゃんもトシ子ちゃんも、こんなきみのわるいところにいる気はありません。 「帰りましょう。 」 「帰りましょう。 」 そして、三人は、いそぎ足に、うしろの林の中へひきかえすのでした。 そのとき、はるかうしろの空から、 「け、け、け、け……。 」 怪鳥 ( かいちょう )のなき声のようなものが、かすかに聞こえてきました。 こうもり男が、少女たちを、あざ笑っていたのです。 「ワアッ、こわいッ……。 」 森下トシ子ちゃんが、もう、がまんができなくなって、ひめいをあげました。 そして三人は、なにか恐ろしいものに追っかけられてでもいるように、いちもくさんに走りだすのでした。 その日おうちにかえると、スミ子ちゃんもトシ子ちゃんも、それぞれ、おとうさんに、時計塔のこうもり男の話をしましたが、そんなばかなことがあるものか、きっと避雷針の修繕をしている電気屋さんかなにかを、そんなふうに見まちがえたのだろうと、とりあってくださいませんでした。 マユミさんも、明智探偵に、それを話しました。 明智探偵は、マユミさんが見まちがえなんかするはずはないとおもいましたので、すぐに、友だちの警視庁の 中村 ( なかむら )警部に、このことをしらせました。 そこであくる日、中村警部は、土地の警察署に、時計やしきをしらべさせましたが、べつにあやしいこともなかったという、報告がきました。 それからなにごともなく、一月ほどたちました。 そのある日のこと、淡谷スミ子ちゃんのおとうさんの、淡谷 庄二郎 ( しょうじろう )さんは、ひとりの 書生 ( しょせい )をつれて、自動車で、 丸 ( まる )ノ 内 ( うち )の 三菱 ( みつびし )銀行の金庫から、ふろしきにつつんだ、小さいはこを取り出して、おうちへ帰りました。 それは、ひじょうにだいじなものなので、いつも銀行の金庫にあずけてあったのです。 淡谷庄二郎さんは、大きな会社の社長さんで、たいへんなお金持ちでしたが、たった一つのどうらくは、宝石をあつめることでした。 いまでは何千万円という宝石をもっているのですが、うちにおいてはあぶないので、三菱銀行の地下の大金庫の中にあずけてあるのです。 きょうは、ぜひ宝石を見せてほしいという、ふたりのお友だちが、淡谷さんのうちへくることになっていましたので、わざわざ、銀行へ取りにいったのです。 しかし、とちゅうでぬすまれてはたいへんですから、書生をつれて、じぶんの自動車で、宝石ばこのつつみを、取り出してきたわけです。 宝石を見たいというお友だちは、ふたりとも、取引先のりっぱな会社の重役ですから、すこしも心配はありません。 ばんには、ごちそうをして、それから宝石を見せることになっていました。 スミ子ちゃんも、おかあさんといっしょに、ごちそうのテーブルに、ならぶことになっていました。 淡谷さんが、宝石ばこを持って、自動車で帰ってからしばらくしたころ、スミ子ちゃんは、近くの本屋さんへ本を取りにいって帰ってきました。 そして、門をはいって、げんかんのほうへ歩きながら、ふと、屋根の上に目をやりますと、そこに、恐ろしいもののすがたが見えたのです。 もう日がしずんで、空は暗くなっていましたが、まだ、まったく夜になっているわけではありませんから、屋根の上も、ぼんやりと見えるのですが、そのうす暗い二階の屋根のてっぺんに、黒いものが、ヌウッと立っていたのです。 アッと思ってたちどまると、そのあやしいすがたは、たちまち、屋根のむこうに消えてしまったので、チラッと見たばかりですが、スミ子ちゃんには、ひと目でわかりました。 それは、一月ほどまえ、あの時計塔の屋根に、黒いマントをひらひらさせていた、こうもり男とそっくりのすがただったではありませんか。 屋根のむこうへ消えるときに、こうもりの羽根のようなマントが、パッと、ひるがえるのが見えたのです。 顔は、暗くてよくわかりませんでしたが、黒いめがねをかけていたようですし、ふさふさした髪の毛のあいだから、二本の角がのぞいていたように思われました。 スミ子ちゃんは、夢中でおうちにかけこんで、おとうさんやおかあさんに、そのことを知らせましたが、おとうさんは、 「スミ子は、本を読みすぎるのじゃないか。 こわい小説なんか、読んではいけないよ。 ありもしないまぼろしを、見たりするようになるからね。 」 といって、いっこう、ほんきになさらないのでした。 「スミ子ちゃんは、このごろ、なんだかノイローゼ(しんけいすいじゃく)みたいね。 顔色もよくないわ。 あんまり本を読まないでね。 」 おかあさんも、おなじことを、おっしゃるのです。 まもなく、ふたりのお客さまがこられて、食堂で、ばんごはんがはじまりました。 スミ子ちゃんも、そのテーブルにつきましたが、心配で心配で、おいしいごちそうも、のどをとおらないほどでした。 ばんごはんがすむと、お客さまを洋室の書斎にとおして、そこで宝石をお見せすることになりました。 スミ子ちゃんも心配なものですから、おとうさんのそばで、宝石ばこがひらかれるのを、ジッと見ていました。 むらさきの色の、ちりめんのふろしきにつつんだものを、テーブルの上において、それをときますと、中から、四角な白ビロードのはこが出てきました。 淡谷さんは、かぎたばを取り出し、一つのかぎをえらんで、そのビロードのはこの 錠 ( じょう )をはずし、ふたをとりました。 ビロードのはこの中に、もう一つ、ピカピカ光る黄金の宝石ばこがはいっていました。 そして、それにも、錠がおろしてあるのです。 淡谷さんは、その黄金の宝石ばこを、だいじそうに、両手でテーブルの上に取り出し、べつのかぎで、ふたをひらきました。 「まあ、きれい!」 スミ子ちゃんは、まえに二、三度見たことがあるのですが、でも、見るたびに、おどろきの叫び声をたてないではいられませんでした。 黄金の宝石ばこの中には、黒ビロードの 台座 ( だいざ )があって、そこに、二十四個の色さまざまな宝石が、はめこんであるのです。 五 色 ( しき )にちかちか光るダイヤモンド、まっ赤なルビー、青っぽく光るサファイア、エメラルド、そのほか、スミ子ちゃんの名もしらぬ宝石が、ずらっとならんでいるのでした。 「ほほう、これはすばらしい。 」 お客さまも、おもわず声をたてて、宝石ばこに見いっています。 淡谷さんは、その宝石を、ひとつひとつ取り出して、それを手にいれるまでの苦心談をなさるのでした。 宝石を見るのに三十分ほどもかかりましたが、そのなかばごろから、スミ子ちゃんは、また、心配でたまらなくなってきました。 さっき、屋根の上に立っていたこうもり男は、どこにいるのでしょう。 うちの中へしのびこんで、どこかのすきまから、この部屋の中をのぞいているのではないでしょうか。 スミ子ちゃんは、おもわずあたりを見まわしました。 そして、庭に面したガラス窓のほうを見たかとおもうと、 「アラッ!」 と叫んで、立ちあがりました。 顔色は、まっ青です。 「アッ、スミ子、どうしたんだ。 きぶんがわるいのか?」 おとうさんがびっくりして、スミ子ちゃんを、だきかかえるようにしました。 スミ子ちゃんは、いったいなにを見たのでしょう? 窓の外の、まっ暗な庭に、なんだか、みょうなものが動いていたのです。 やみの中に、まっ黒なやつがいるのですから、はっきりは見えませんが、でも、たしかにあいつです。 きょうの夕がた、おうちの屋根の上に立っていた、あの恐ろしいこうもり男にちがいありません。 ぴったり身についた黒いシャツをきて、こうもりの羽根のような黒いマントを両方にひろげ、黒めがねをかけた顔が、ぼんやりと、白く見えています。 それを見たスミ子ちゃんは、まっ青になって、よろよろとたおれそうになったので、おとうさんの淡谷さんはびっくりしてかけより、スミ子ちゃんを、両手でだくようにしました。 「どうしたんだ。 しっかりしなさい。 」 「あそこに……。 」 スミ子ちゃんは、窓の外の暗やみを指さしました。 「なにもいやしないじゃないか。 いったい、なにがいたというの?」 おとうさんは、窓ガラスの外の暗やみを、じっとすかして見ていましたが、べつにあやしいものもいないのです。 こうもり男は、とっさに、庭の木のしげみに、身をかくしてしまったのかもしれません。 「夕がた、うちの屋根の上に立っていたあれよ。 こうもりみたいな人よ。 いま、あの木の前で、黒い羽根をひろげていたのよ。 」 スミ子ちゃんは、おびえきった声で、ささやくようにいうのでした。 「なにをいっているんだ。 だれもいやしないじゃないか。 スミ子は、まぼろしを見たんだよ。 こうもりのような男が、この世にいるはずはない。 気のせいだよ。 さあ、こっちへおいで。 」 おとうさんは、そういって、スミ子ちゃんを、テーブルのほうへつれもどしました。 そうはいうものの、淡谷さんも、泥坊が宝石をねらっているのかもしれないと思うと、すこし心配になってきましたので、いそいで宝石ばこにかぎをかけ、書斎の金庫の中へしまって、金庫の暗号のかぎをまわしました。 暗号のかぎというのは、金庫のとびらにダイヤルがついていて、そのダイヤルのまわりに、ABCからXYZまでの、二十六字がきざみこんであり、それを自分だけ知っている順序で回しておいて、そのつぎひらくときにも、そのとおりに回さないと、ひらかないしかけになっているのです。 淡谷さんの暗号は、SUMI(スミ)というのでした。 かわいいスミ子ちゃんの名を暗号にしていたのです。 淡谷さんは、S、U、M、Iという順序で、ダイヤルを回しておいて、もとの席にもどりました。 ふたりのお客さまは、それからしばらく話をしたあとで、いとまをつげて帰りましたが、淡谷さんはなんとなく気になるので、金庫のある書斎にのこって、安楽いすにこしかけ、たばこをすっていました。 すると、部屋のすみにおいてある電話のベルが、けたたましくなりだしたではありませんか。 淡谷さんはなぜか、ハッとしたように立っていって、受話器を耳にあてました。 「淡谷庄二郎さんは、おいでになりますか。 」 「わたしが淡谷庄二郎です。 あなたは?」 「おじょうさんのスミ子ちゃんの、おしりあいのものです。 こうもりのような男とおっしゃれば、スミ子ちゃんには分かりますよ。 」 淡谷さんの顔色が、サッとかわりました。 ああ、やっぱり、スミ子ちゃんのいったことは、ほんとうだったのかと思うと、にわかに、きみがわるくなってきました。 「き、きみはだれだッ。 わたしになんの用事があるのだッ。 」 「用事はほかでもありません。 あなたがだいじにしている、二十四個の宝石がいただきたいのです。 むろん、あなたは、それをくれるはずはありません。 ですから、ぼくがかってに持ち出すのですよ。 びっくりなさるといけないから、まえもってお知らせしておきます。 時間もきめておきましょう。 あすの夜の十時までに、きっとちょうだいします。 いくら、厳重に見はっていても、だめですよ。 銀行の金庫にあずけるのも、危険です。 それをはこぶ途中があぶないですからね。 まあ、せいぜい用心してください。 だが、いくら用心しても、だめですよ。 ぼくは、魔法つかいですからね。 」 「わかった。 きみは予告の盗賊というわけだね。 だが、いったいきみはだれだ。 予告するほどの勇気があるなら、名まえをいってもいいだろう。 だいいち、名もなのらないというのは、礼儀ではなかろう。 」 「ぼくの名が聞きたいのですか。 」 「うん、聞きたい。 」 「聞かなければよかったと、こうかいするかもしれませんよ。 」 「なにをばかなことをいっているのだ。 さあ、名のりたまえ。 」 「じゃあ。 名のりましょう。 びっくりしないように気をおちつけて聞いてください。 ぼくはね、 カイジン、 シジュウメンソウです。 ハハハハ……、そうらごらんなさい。 あなたは、びっくりして、口もきけないじゃありませんか。 ……では、あすの晩の十時ですよ。 さようなら。 」 そして、電話はぷっつり切れてしまいました。 残念ながら淡谷さんが、びっくりして口もきけなかったのは、ほんとうです。 ああ、なんということでしょう。 あの恐ろしい怪人四十面相から、電話がかかってきたのです。 四十面相のもとの名は、怪人二十面相でした。 予告をしたら、かならずそのとおりにやってのける、魔法の賊です。 この怪物とたたかってひけをとらない人物は、名探偵明智小五郎ただひとりでした。 淡谷さんは、まえに、明智探偵に事件をたのんだことがあるので、明智とはしりあいです。 すぐに明智探偵事務所の電話番号をしらべて、ダイヤルを回しました。 むこうの電話口に出たのは、小林少年でした。 「ぼく、助手の小林です。 明智先生は、神戸に事件があって、旅行中です。 五日ほど東京へは帰りません。 どんなご用でしょうか。 なんでしたら、ぼくがおうかがいしてもいいのですが……。 」 それを聞くと、淡谷さんはがっかりしましたが、小林という少年も、なかなかうでききだと聞いていましたので、ともかく小林君に来てもらうことにしました。 夜ふけでしたが、小林少年は、自動車をとばしてやってきました。 そして淡谷さんと相談したうえ、宝石は、銀行へあずけないで、このまま書斎の金庫の中におくこと、書斎には淡谷さんをはじめ、うちの人や小林少年がたえず見はりをつづけること、そのほかに、警視庁の中村警部にたのんで、三人の刑事に来てもらい、淡谷邸の内外を見はってもらうことなどをとりきめました。 さて、そのあくる日は、朝から小林少年と三人の刑事がやってきて、小林君は、淡谷さんとふたりで、金庫の番をし、刑事たちは、廊下や庭を、たえず歩きまわることになりました。 そういうさわぎですから、怪人四十面相が、宝石をぬすみ出しにくるということは、うちじゅうの人にしれわたりました。 スミ子ちゃんも、むろんそれを知っているので、学校へいっても、先生のお話が耳にはいらないほどでした。 主人の淡谷さんは、その日は会社へも出ないで、書斎にがんばることにしましたが、スミ子ちゃんは学校へいきましたし、スミ子ちゃんのにいさんの淡谷一郎君も、会社へ出かけていきました。 淡谷一郎君は二十五歳で、まだ結婚まえの青年でした。 大学を出るとおとうさんの会社へはいり、ふつうの社員として、毎日かよっているのです。 スミ子ちゃんには、このにいさんのほかに、きょうだいはありませんでした。 スミ子ちゃんは、午後三時半ごろ学校から帰ると、おとうさんと小林少年のがんばっている書斎へいってみたり、茶の間のおかあさんのそばに、すわってみたり、刑事たちが、うろうろしている廊下を歩きまわってみたり、ときどき、げんかんのホールに出て、早くにいさんが帰らないかしらと待ちうけてみたり、そわそわとして、おちつかないのでした。 五時すごしすぎ、げんかんのドアの音がして、待ちかねていたにいさんが、会社から帰ってきました。 スミ子ちゃんは、ホールへかけ出していってにいさんをむかえ、にいさんが、くつをぬいでホールへあがってくるのを待って、いつものあいさつをしました。 スミ子ちゃんは、右手の人さし指をまっすぐに立てて、自分の鼻の前にくっつけ、右の目を、ぱち、ぱち、ぱちと、三度またたいて見せました。 これは、ふたりだけが知っている暗号通信みたいなもので、こういう形で、仲よしのしょうこを見せることになっていました。 そのあいずをすると、いつもなら、にいさんのほうでも、同じようなことをして見せるはずでした。 同じといっても、すこしちがいます。 スミ子ちゃんが、人さし指を立てて、鼻にくっつけたときには、にいさんのほうは、人さし指をよこにして、鼻にくっつけ、ぱち、ぱち、ぱちと、三度またたきをすることになっていました。 もし、スミ子ちゃんが、人さし指をよこにして、鼻にくっつけたら、にいさんのほうは、たてにするというきまりです。 ところがきょうは、スミ子ちゃんが同じことを二度もくりかえしたのに、にいさんはなにもしないで、だまったまま二階の自分の部屋へあがっていくのです。 皮の書類かばんを右手にさげたまま、あがっていくのです。 これも、いつもとちがっていました。 いつもは、スミ子ちゃんがかばんを持って、にいさんについて、二階にあがることになっていました。 そして、そのおれいに、机のひき出しにしまってあるチョコレートや、キャラメルを、スミ子ちゃんにくれるのです。 ところが、にいさんは、かばんをスミ子ちゃんにわたそうともしなければ、部屋へはいっても、おかしのしまってあるひき出しを、あけようともしません。 スミ子ちゃんが、机のそばに立っても、へんな顔をして、じろじろとながめるばかりです。 にいさんは、四十面相がやってくるというので、気がおちつかなくて、いつものやりかたを、わすれてしまったのでしょうか。 「どうして、かばん持たしてくんないの? そしていつものごほうびは?」 スミ子ちゃんが、すねたようにいいますと、にいさんはへんな顔をして、 「いつものごほうびだって?」 と聞きかえしました。 ひき出しのおかしのことまで、わすれてしまったのでしょうか。 「右の三つめのひき出しよ。 きょうはチョコレートがいいわ。 」 スミ子ちゃんがいいますと、にいさんは、やっと思い出したように、 「ああ、そうだったね。 」 といって、そのひき出しをあけ、チョコレートのつつみを一つ取りだすと、 「はい、ごほうび。 」 と、手わたしてくれるのでした。 スミ子ちゃんは、 「ありがとう。 」 といって、そのままにいさんの部屋を出ましたが、階段をおりると、廊下のまん中で立ちどまってしまいました。 なんだか、へんな気持ちです。 わすれようとしてもわすれられない、いつものしきたりを、にいさんは、けろりとわすれていたのです。 スミ子ちゃんが教えるまでは、おかしのはいっているひき出しさえ知らなかったのです。 これは、どうしたことでしょう。 いくら心配ごとがあったって、そんなことまでわすれるというのは、どうもおかしいではありませんか。 そのとき、階段に、とんとんと足音がして、にいさんがおりてきました。 その音をきくと、スミ子ちゃんは、ギョッとしたように、階段のうしろに身をかくしました。 そして、にいさんが、おとうさんたちのいる書斎へはいっていくのを、ソッとのぞいていました。 なぜ、そんなへんなまねをしたのでしょう。 スミ子ちゃんは、自分でも、わけがわかりませんでした。 階段のかげから、書斎のほうへ行くにいさんのうしろすがたを見ていますと、 「あれが、ほんとうに一郎にいさんかしら?」 と、うたがわしくなってきました。 あたまの中に、にいさんのすがたと、あの恐ろしいこうもり男のすがたとが、二重うつしのようにかさなりあって、ボウッと浮かんでくるのです。 「まさか、そんなことがあるはずはない。 いくら、四十面相が変装の名人だって、あんなに、にいさんとそっくりに化けられるはずはないわ。 でも、ひょっとしたら……。 」 スミ子ちゃんは、この恐ろしい考えに、顔の血がスウッとひいていくような気がしました。 まっ青になっていたにちがいありません。 スミ子ちゃんは廊下を、あっちへいったりこっちへいったり、歩きはじめました。 どうしていいのか、決心がつかなかったからです。 「おとうさんや、おかあさんに知らせたって、またノイローゼだといって、とりあってくださらないにきまっている。 ああ、そうだ。 小林さんに知らせよう。 小林さんなら、きっと、あたしの気持ちをわかってくださるわ。 」 でも、書斎へいって、小林少年を呼びだすわけにはいきません。 そこには、あの恐ろしい一郎にいさんもいるからです。 もし、あれが四十面相の変装だとしたら、すぐに感づかれるにきまっているからです。 こんなことをいろいろ考えながら、廊下をうろうろしていますと、うまいぐあいに、書斎から小林少年が出てきました。 お手洗いへいくのかもしれません。 スミ子ちゃんは、廊下に待ちうけていて、ソッと小林少年を呼びとめました。 そして、小林君の耳に口をあてて、なにか、ぼそぼそとささやくのでした。 小林君は、それを聞くと、まゆをしかめてしばらくだまっていましたが、 「きみの考えが、あたっているかもしれないね。 ぼくは、あいつには、たびたびだまされたことがあるので、あいつがどんな魔法つかいだかということを、よく知っている。 変装は自由自在なんだからね。 よしッ、ぼく、ちょっと出かけてくるよ。 あいつがもし四十面相だとしたら、そのうらをかいてやるんだ。 じき帰ってくるよ。 おとうさんやおかあさんには、なにも、話さないほうがいい。 きみは、しらん顔をしているんだ。 わかったね。 」 小林少年は、そうささやいておいて、そっと、裏口からどこかへ出かけていくのでした。 まもなく、小林少年が帰ってきて、書斎にはいりました。 もう夕がたです。 食事の時間になりました。 食事は、ひとりずつ、かわりあって食堂へいき、書斎には、いつも三人のうちのふたりが、のこっているようにしました。 小林少年が、さいごに食事に立ちました。 もう七時をすぎています。 書斎には、淡谷さんと一郎青年の親子がのこりました。 もう話すこともなく、だまりこんでむかいあっています。 しいんとして、だんろ棚の上の置時計のカチカチという音だけが、いやに大きく聞こえるのです。 「わしは、ちょっと手洗いへいってくるから、しっかり見はっていてくれよ。 」 淡谷さんが、そういって立ちあがりました。 「ええ、だいじょうぶです。 」 一郎青年が、たのもしげに答えました。 ああ、あぶない! あやしい一郎青年だけをのこして、部屋をあけるなんて! しかし淡谷さんは、すこしも一郎をうたがっていないのですから、あぶないなどとは思いません。 そのまま、ドアの外に出ていってしまいました。 淡谷さんが部屋にいなかったのは、たった五分間でした。 しかし、その五分間に、書斎でどんなことがおこっていたかは、だれもしりません。 淡谷さんがもどってみると、一郎青年は、もとのいすにかけて、ゆったりと、たばこを吹かしていました。 まもなく、小林少年も、食事をすませて帰ってきました。 それから十時まで、三人は一度も書斎から出ませんでした。 時間のたつのが、おそろしく長いように思われました。 置時計が、八時をうち、やがて九時をうち、九時半となり、九時四十分となり、九時五十分となりました。 「あと十分で、十時ですね。 」 一郎青年が、ぽつんといいました。 だれも答えません。 みんな、だまりこんでいますが、心は、はりつめた糸のようにきんちょうしているのです。 カチカチカチと、時のたっていくのが恐ろしいようでした。 「あと五分ですね。 」 また、一郎青年がぽつんといいました。 三人は、じろじろと、おたがいの顔をにらみあっていました。 そのとき、一郎青年が、すっと立ちあがりました。 そして、ゆっくり、むこうがわへ歩いていくと、ガラス窓をひらいて、まっ暗な庭をながめました。 「なにもいません。 庭からやってくるのではないようですね。 」 そういって、窓の戸にかけがねをおろして、もとのせきにもどってきました。 チーン、チーン、チーン……。 置きどけいが、びっくりするような音で、十時をしらせました。 ああ、とうとう約束の十時がきたのです。 約束の十時に、どんなことがおこったのでしょうか。 ですが、ちょっとお待ちください。 ここでお話をすこしまえにもどして、書いておかなければならないことがあるのです。 おなじ日の夕がた、四時半ごろのことです。 おとうさんの淡谷さんが社長をやっている会社の社員である一郎青年は、四十面相のことが心配なので、すこしはやく会社を出て、家へ帰ってきました。 そして、 千歳烏山 ( ちとせからすやま )の駅でおりて、改札口を出ますと、そこに せびろをきた三十五、六歳の男が待っていて、一郎さんを見ると、つかつかとそばへよってきました。 「淡谷一郎さんですね。 わたしはおたくにつめている警視庁のものです。 もうあなたがお帰りのころだから、駅へむかえにいってやってくれという、ご主人のおたのみで、やってきました。 ご主人は今夜のことを、ひじょうに心配されまして、いっこくもはやくあなたに帰ってほしいとおっしゃるのです。 駅から歩いたのでは二十分もかかるから、車でむかえにいってやってくれという、おたのみなのです。 」 警視庁の私服の刑事が、車でむかえにくるというのはへんですが、一郎さんは、そこまでうたがわず、気がるに車に乗ってしまいました。 乗ってみると、その自動車の後部席には、もうひとりの せびろの男が待っていて、にこにこしながら、「さあどうぞ。 」と、席をあけてくれました。 そして、あとからは、さっきの男が乗ってきましたので、一郎さんは、ふたりの見しらぬ男に、両方からはさまれた形になりました。 車はすぐに、走りだしました。 走りだしたかとおもうと、一郎さんの左のわきばらに、なにかかたいものが、グッとおしつけられました。 「ピストルだ。 声をたてるとうつぞッ。 しずかにしているんだ。 」 まえから車に乗っていた男が、ひくい声でいいました。 せまい自動車の中ですから、一郎さんは、どうすることもできません。 身うごきすればうたれそうなので、じっとしているほかはないのです。 するとパッと、目をふさがれました。 右がわの男が、てぬぐいのようなもので、一郎さんに目かくしをして、うしろで、かたくむすんでしまったのです。 それから、こんどはさるぐつわです。 ハンカチをまるめたようなものが、口の中へおしこまれ、その上から、やっぱりてぬぐいのようなもので、口から首のうしろにかけて、強くしばられてしまいました。 「ちょっと息ぐるしいが、しばらくのがまんだ。 いのちがおしかったら、じっとしているんだよ。 」 そんなことをいいながら、男は一郎さんの両手をねじあげて、うしろにまわし、ほそびきでしばりあげました。 目かくしをされたので、自動車がどこを走っているのか、すこしもわかりません。 むろん、淡谷さんのやしきへいくはずはないのです。 いったい、どこへつれていこうというのでしょう。 それに、このふたりの悪漢はなにものでしょうか。 一郎さんは、すこしも心あたりがありません。 ひょっとしたら、ああ、ひょっとしたら、この男たちは、怪人四十面相の手下なのではないでしょうか。 やがて自動車は、さびしい原っぱをとおって、きみょうなたてものの前につきました。 一郎さんは、目かくしされているのでわかりませんが、それは、いつかの夕がた、淡谷スミ子ちゃんたちが、こうもり男を見た、あの時計塔のある 怪屋 ( かいおく )でした。 やっぱりそうでした。 こうもり男は四十面相ですから、一郎さんは、四十面相のすみかへつれてこられたのです。 自動車からおろされ、石のだんをのぼって、たてものの中へつれこまれました。 ぷうんとかびのにおいのする、ひえびえとした、いんきなたてものです。 廊下を、ぐるぐるまわって、ひとつの部屋におしいれられました。 そこで、やっと目かくしをとってくれたので、一郎さんは、いそいであたりを見まわしました。 あれはてた洋室でした。 むかしはりっぱな部屋だったのでしょうが、かべ紙はいろあせて、ところどころやぶけていますし、床はじゅうたんもなく、ほこりのつもった板ばりで、小さな窓には、さびた鉄ごうしがはまっています。 一方に壁だんろがありますが、その中は、くものすだらけで、だんろ棚の上の壁に、はめこみになっている大きな鏡は、水銀がまだらにはげたうえ、いちめんに、大きくひびわれています。 「そいつのなわをといて、服をぬがすんだ。 」 一方の男が、もうひとりの男に命令しました。 命令したほうが、首領らしいのです。 そこで、一郎さんは、いったんなわをとかれ、うわぎとズボンをはぎとられたうえ、もういちどうしろでにしばられ、そのうえ、足までしばられて、板の間にころがされました。 ころがったまま見ていますと、首領らしいやつは、自分の服をぬぎすてて、一郎さんの服を身につけました。 そして、どこからかあぶら絵の絵のぐ箱を出して、それをひらいて、だんろ棚の上におき、鏡の前に立って、筆で絵のぐをまぜながら、顔のけしょうをはじめました。 何本も筆を持って、ちょいちょいと、いろいろな色を、自分の顔にぬっているのです。 それからしばらくして、首領らしいやつは、ひょいと、こちらをふりむきました。 「一郎君、どうだね、この顔は?」 それを見ると、一郎さんは、びっくりしてしまいました。 自分とそっくりのやつが、そこに立っていたからです。 みごとな変装です。 筆で、ちょいちょいとやったばかりで、その男の顔は、一郎さんと見ちがえるほど、よくにてしまったのです。 「おれは変装の名人だ。 わかるかね。 つまり、いくつでも顔をもっているんだ。 今までの顔だっておれのほんとうの顔かどうか、わからないのだよ。 しょっちゅう、ちがった顔につくっているものだから、おれは、自分の顔を、わすれてしまったほどだよ。 アハハハハ……、わかったらしいね。 きみが恐れている怪人四十面相というのは、このおれなんだよ。 」 一郎さんは、ギョッとして、なにか叫びましたが、さるぐつわをはめられているので、声にならないのです。 (ああ、こいつが四十面相だったのか。 こうして、ぼくに化けてうちへのりこみ、みんなにゆだんさせて、宝石をぬすみだすつもりだなッ。 ) 一郎さんは、やっとそこへ気がつきました。 しかし、どうすることもできません。 ただ、そこにころがったまま、恐ろしい目で、あいてをにらみつけているばかりです。 「しばらく、そうしてがまんしているんだよ。 十時すぎには、きっと帰ってきて、なわをといてやるからね。 」 四十面相は、そういいすてて、部下をつれて出ていってしまいました。 入口のドアにかぎをかけたことは、いうまでもありません。 それから二十分ほどたって、あの、にせの一郎青年が、淡谷邸に帰り、スミ子ちゃんにうたがわれたのです。 それからまた四十分ほどたったころ、板の間にころがっている一郎さんは、ドアの外へ、人の足音が近づくのを、ききつけました。 悪人が帰ってきたのかと、じっと、ドアのほうをにらんでいますと、ドアの とっての回る音がして、しずかにドアがひらき、なにものかがしのびこんできました。 そのころは、もう日ぐれですから、部屋の中が暗くなっていましたが、一郎さんは目がなれているので、だいたいの見わけはつくのです。 はいってきたのは、子どものように、小さい男でした。 手には懐中電灯を持っているようです。 用心のために、その火を消して、はいってきたのでしょう。 その 小男 ( こおとこ )は、入口に立って、部屋の中をすかすように見ていましたが、やっと、一郎さんがたおれているすがたを見つけたらしく、そっと、そばへ近よってきました。 そして、いきなり、パッと懐中電灯をつけて、その光を、一郎さんの顔にあてました。 「あなたは、淡谷一郎さんではありませんか。 」 それは少年の声でした。 どうやら、悪人ではないようです。 しかし、答えようにも、さるぐつわをはめられているので、口がきけません。 あいてはそれに気づいたらしく、懐中電灯を床において、さるぐつわをほどき、口の中のハンカチをとり出してくれました。 一郎さんは、やっと息がらくにできるようになったのです。 「ぼくは淡谷一郎ですが、あなたはだれです?」 一郎さんが、いぶかしそうにたずねました。 「このまえの事件のとき、明智先生といっしょにおじゃました、少年助手の小林ですよ。 」 そういって、懐中電灯をひろって、自分の顔を照らしてみせました。 一郎さんはよくおぼえていました。 いつか淡谷さんの家に、盗難事件があったとき、明智探偵といっしょにきてくれた、あの少年です。 「アッ、きみは、あのときの小林君!」 「そうですよ。 」 「どうしてここへやってきたんです。 どうして、ぼくがここにいるとわかったのです?」 「すこしまえに、もうひとりの一郎さんが、おうちへ帰っているのです。 それがにせものではないかということを、スミ子ちゃんが気づいたのです。 ぼくはきっとそうだと思いました。 いつも四十面相は、こういう手をつかうからです。 それでは、ほんとうの一郎さんは、どこにいるのかと考えました。 そうすると、いつかこうもり男が屋根の上にいたという、この時計塔のやしきがあやしいと気がつきました。 それで、すぐにここへ来てみたのです。 この部屋をさがすのに、てまどりましたが、ほかの部屋はかぎがかかってないのに、この部屋だけ、かぎがかかっているので、あやしいとおもって、はりがねをまげた万能かぎで、あのドアをひらいて、はいってきたのです。 」 小林君は、てみじかに説明しました。 小林少年がスミ子ちゃんの話をきいて、ちょっと外へ出ていったことは、前にかいておきました。 そのとき小林君は、この時計やしきへやってきたのです。 それから、ふたりは、ささやき声で、しばらくなにか相談をしていましたが、それがすむと小林少年は、 「それじゃ、まちがいなくおねがいします。 ぼくはこれから、まだ一つ、やっておくことがあるのです。 それをすませて、すぐに帰ります。 」 「よろしい。 ぼくも、いまうちあわせたとおりにやるよ。 きみのおかげでたすかった。 きみは、やっぱり名探偵だよ。 ありがとう。 」 一郎さんは、小林君がたちさるのを見おくってから、そこへおちていた四十面相の服を、着はじめるのでした。 こちらは淡谷さんの書斎です。 いま置時計が十時をうちました。 四十面相が、宝石ばこをぬすみ出してみせると予告した時間です。 その書斎には、主人の淡谷さんと、一郎青年(これがにせものであることは、読者諸君はごぞんじです。 しかし、淡谷さんは、まだすこしも気づいていないのです。 )と、小林少年の三人が、テーブルのまわりにこしかけて、壁にはめこみになっている金庫を、にらみつけていました。 「なにごともなかったじゃないか。 いくら四十面相でも、こんなに厳重にみはられていては、どうすることもできないからね。 」 淡谷さんが、安心したようにつぶやきました。 「いや、あいつはきっと約束をまもります。 ひょっとしたら、もう、ぬすみ出してしまったかもしれませんよ。 」 一郎青年が、まるで四十面相のみかたのようないいかたをしました。 「なにをいうんだ。 そんなばかなことがあるもんか。 われわれ三人が、ずっと見はりをつづけていたじゃないか。 」 「三人がですか。 」 一郎青年が、おとうさんをあざけるようにいいました。 「三人だよ。 」 「ところが、そうじゃないのですよ。 さっき小林君が食事にいったときは、あなたとぼくと、ふたりきりでした。 そして、あなたは、ぼくをひとりぼっちにして、手あらいへいったじゃありませんか。 」 どうもへんな口のききかたです。 一郎青年は、おとうさんのことを、あなたとよんでいるのです。 いつもこんなよびかたをしたことはありません。 」 「そのあいだ、おまえがひとりでいた。 そのときに、なにかあったというのか。 」 淡谷さんが、へんな顔をして、ききかえします。 「ええなにかあったのです。 」 「なぜ、それを早くいわないのだ。 いったい、なにがあったのだ。 」 「金庫をあけてごらんなさい。 わかりますよ。 」 一郎さんが、にくにくしげにいうのです。 淡谷さんは、それを聞くと、なにかしらギョッとしました。 大いそぎで金庫の前にいき、ダイヤルを回して、そのとびらをひらきました。 ひらいたかとおもうと、 「アッ、ない。 宝石ばこがなくなっているッ。 」 と叫んで、その場にたちすくんでしまいました。 その声に、小林少年も一郎青年も立ちあがりましたが、だれも、ものをいうものがありません。 部屋の中は、しいんとしずまりかえってしまいました。 しばらくしてから、淡谷さんが、一郎青年をにらみつけて、どなりつけました。 「おまえ、それをなぜいわなかったのだ。 四十面相がはいってきて、宝石ばこを持っていくのを、だまって見ていたのかッ。 」 一郎青年は、にやにや笑いました。 「ピストルをつきつけられたので、どうすることもできなかったのです。 それに、あいつは金庫の暗号も知っていました。 」 「あいつとはだれのことだ。 」 「むろん、怪人四十面相です。 こうもりのようなやつでしたよ。 」 一郎青年は、ぬけぬけとうそをいっています。 小林少年はたまらなくなって、つかつかと、一郎青年の前に近よりました。 「うそだッ、それはみんなうそだッ。 怪人四十面相は、まだ逃げだしていない。 この部屋の中にいる。 」 といって、一郎青年をにらみつけました。 「ワハハハ……。 小林君、なにをいっている。 四十面相が、この部屋にいるんだって?」 一郎青年は、さもおかしそうに笑いだしました。 「どこにいるんだね?」 「そこに!」 「そことは?」 小林少年は、一郎青年の顔に、人さし指をさしつけました。 「きみだッ! きみが怪人四十面相だッ!」 「ワハハハハ……。 なにをねぼけているんだ。 ぼくは、ここのうちのむすこの一郎だよ。 しっけいなことをいうなッ!」 そのときです。 入口のドアがパッとひらいて、そこから、ほんものの一郎青年が、つかつかとはいってきました。 そのうしろから、スミ子ちゃんが、にいさんのかげにかくれるようにして、はいってきます。 そして、ふたりの一郎青年がむかいあって、部屋のまん中につっ立ったのです。 ほんもののほうが、四十面相のきていた服をつけ、にせもののほうが、一郎さんの服をきているので、どちらがほんものとも、見わけがつきません。 かえってにせもののほうが、ほんとうの一郎さんらしく見えるくらいです。 淡谷さんは、あっけにとられて、このふしぎな光景を見つめていました。 スミ子ちゃんは、おとうさんのそばによって、そのうでにつかまっています。 この異様なにらみあいは、一分間ほどもつづきました。 いくら服があべこべでも、にせものが、ほんものに勝てるわけはありません。 にせものの顔色がだんだんわるくなり、そのからだが、ゆらゆらとゆれてきました。 「そのにせものを、いちばんはじめに発見したのは、そこにいるスミ子ちゃんです。 ぼくはそれを聞いたので、ほんとうの一郎さんを、助けだしてきたのです。 こいつが四十面相です。 こいつが警視庁の刑事に化けて、一郎さんを時計やしきにとじこめ、一郎さんに化けて、ここへやってきたのです。 」 小林少年が、叫ぶようにいいました。 それを聞いて、淡谷さんにも、だいたいことのしだいがわかりました。 四十面相も、それはいま聞くのがはじめてですから、小林少年のきびんな活動に、舌をまいておどろきました。 もう、いっこくも、ぐずぐずしてはいられません。 「ワハハハ……。 それじゃ、あばよ!」 といったかとおもうと、四十面相は、パッと窓のところへとんでいって、手ばやくガラス戸をひらき、まっ暗な庭へとびだしてしまいました。 しかしその庭には、刑事たちが、見はりをしているはずです。 いや、もっと恐ろしい敵が、待ちかまえているかもしれません。 四十面相は、どうしてそれをきりぬけるつもりなのでしょう。 にせの一郎青年が、逃げだしたのを見ると、小林少年は、パッと窓ぎわへかけつけました。 そしてポケットから、探偵の七つ道具の一つである、よびこの笛をとりだすと、ぴりぴりぴり……と、ふきならしました。 庭にいる刑事たちに、四十面相が逃げたことを知らせるためです。 まっ暗なひろい庭を、あちこちと回り歩いて警戒にあたっていた三人の刑事は、この、よびこの音をきくと、みんな、窓ぎわへ集まってきました。 「四十面相は一郎さんに化けていたんです。 宝石ばこをぬすみました。 そして、いま、この窓から逃げだしたのです。 まだそのへんにいるはずです。 つかまえてください。 」 小林少年が叫びますと、刑事たちは顔を見あわせて、 「へんだなあ。 ぼくたちは三方からかけつけてきたんだから、ここから逃げたら、だれかにぶっつかっているはずですよ。 ところが、ぼくたちは、あやしいやつには、いちども出くわさなかった。 すると、どこか、このへんの木のしげみにでも、かくれているのかもしれないね。 」 刑事たちは、いぶかしそうにいって、てんでに懐中電灯をつけると、また三方にわかれて、捜索をはじめるのでした。 しばらく、しげみの中をさがしまわりましたが、どこにも、にせの一郎青年のすがたはありません。 四十面相は、またしても魔法をつかって、消えうせてしまったのでしょうか。 そのとき、さがしつかれた刑事のひとりが、ふと空を見あげました。 「アッ! あすこだ。 あすこにいる。 」 西洋館の二階の屋根のてっぺんに、恐ろしいすがたが立ちはだかっていました。 外灯のぼんやりした光をうけて、夜空の中に、あのこうもり男が、つっ立っていたではありませんか。 にせの一郎青年は、いつのまにか、こうもり男にばけて、大屋根にのぼっていたのです。 どうして、あんな高いところへのぼることができたのでしょう。 あとでわかったのですが、四十面相は、あらかじめ、大屋根のてっぺんから、窓の外へ、黒いつなをたらしておいたのです。 そして、窓をとびだすと、そのつなにすがって、さるのように、するすると、大屋根までのぼりついたのです。 「アッ、あいつ、宝石ばこをかかえているぞッ。 」 あの、むらさきのふろしきにつつんだ四角なはこを、だいじそうにこわきにかかえているのです。 「け、け、け、け……。 」 空から、きみのわるい怪人の笑い声がひびいてきました。 庭から見あげている刑事たちをあざ笑っているのです。 刑事たちは、きゅうに考えをきめることができませんでした。 四十面相をとらえるためには、まず、はしごで一階の屋根にのぼり、そこからまたはしごをかけて、二階の屋根にのぼるしかないのですが、あいては曲芸師のようなやつです。 そんなことをしているうちに、 といでもつたって下へおりられたら、なんにもなりません。 それに、 といは洋館のむこうがわにもあるのですから、三人の刑事では、人数がたりないのです。 「おい、電話をかけろ。 パトカーを呼ぶんだ。 ぼくら三人では、どうにもできない。 」 そして、ひとりの刑事が、電話をかけるために、洋館のげんかんへかけだそうとした時です。 空を見あげていたべつの刑事が、 「アッ。 」と、声をたてました。 大屋根の上から、まっ黒なものが、サアッととびおりてきたのです。 巨大なこうもりが、マントの羽根をいっぱいにひろげて、刑事たちの頭の上へ、とびかかってきたのです。 三人の刑事は、ギョッとして、おもわず地面にうずくまりました。 すると、刑事たちのすぐそばまでとびおりてきた大こうもりが、そのまま、西洋館の反対の空中へ、スウッとまいあがっていったではありませんか。 ああ、わかった。 ぶらんこです。 四十面相のこうもり男は、大屋根から黒いつなにすがって、ぶらんこをやったのです。 淡谷さんの庭には、近所のめじるしになるような大きな しいの木がそびえています。 その しいの木は、上のほうでふたまたにわかれ、一方の枝が、ずっと横のほうにのびています。 その太い枝に黒いつなをむすびつけ、つなのはじを大屋根までわたしておいて、四十面相はそれにすがって、とびおりたのです。 すると、その黒いつなが大きなふりこになって、サアッと地面に近づいたかとおもうと、こんどは反対の方角へスウッとあがっていったのです。 その方角に、淡谷邸の高いコンクリート 塀 ( べい )があり、その外は、道路になっています。 四十面相のこうもり男は、つながコンクリート塀の上にとどいた時、パッと手をはなして、塀の外へとびおりてしまいました。 こうもり男は、一郎青年に化けるまえに、たびたび淡谷邸にしのびこんで、屋根の上にすがたをあらわしたり、庭から書斎の窓をのぞいたりしていたのですから、その時、ぶらんこの用意をしておいたのでしょう。 こうもり男のとびおりた、塀の外の道路は、一方は淡谷邸のコンクリート塀、一方は、草のしげった原っぱになっていました。 その原っぱには、ところどころに立ち木があり、ひくい木のしげみなどもあるのです。 こうもり男は、その一つのしげみの中へ、サッとすがたをかくしましたが、ほんの一分もたったかたたないうちに、そのしげみから、ひとりのじいさんが、ヌウッとあらわれました。 きたない鳥打ち帽をかぶり、ぼろぼろのオーバーをきて、首にえりまきをまきつけた、六十ちかいじいさんです。 首からひもで手さげ電灯をむねの前にさげ、 拍子木 ( ひょうしぎ )のひもも首にかけています。 町内の夜まわりのじいさんらしく見えます。 これは、いうまでもなく、四十面相の変装でした。 そのしげみの中に、まえもって、変装の服などがかくしてあったのでしょう。 なにしろ変装の名人のことですから、またたくまに、こうもり男から、火の番のじいさんに化けてしまったのです。 その時、淡谷邸の表門のほうから、三人の刑事がかけだしてきて、そのへんを、キョロキョロとさがしまわっています。 じいさんに化けた四十面相は、原っぱのはずれまでいって、そこから道路に出ると、刑事たちのほうへ近づいていきました。 「火のようじん……。 」 ちょんちょんと、拍子木をうって、のろのろと歩いていきます。 「おい、じいさん。 いまここへ、黒いマントを着たやつがとびおりたんだが、見なかったかね。 」 刑事のひとりが、あわただしく、たずねました。 「エッ、黒いマントですって?」 じいさんは、立ちどまって、びっくりしたように聞きかえしました。 声まで、しわがれたじいさんの声になっています。 「うん。 四十面相という大泥坊だ。 この塀の外へとびおりたんだよ。 黒いシャツの上に黒マントをきた、こうもりみたいなやつだ。 見なかったかね。 」 「アッ、それじゃあ、いまのやつだ。 そうですよ、マントをひらひらさせて走っていきましたよ。 あっちです。 あっちのほうへ、飛ぶように走っていきました。 」 夜まわりのじいさんは、はるかうしろのほうを指さして、まことしやかに答えるのです。 「よしっ、あっちだなッ。 すぐ追っかけよう。 」 刑事たちは、そのまま、じいさんの指さしたほうへ、ばたばたとかけさってしまいました。 それを見おくって、じいさんは、にやりと笑いました。 手ばやい変装が、みごとに 効 ( こう )をそうしたのです。 しかし、まだゆだんはできません。 刑事たちが、とちゅうで気づいて、ひきかえしてきたらたいへんです。 じいさんは、あたりを見まわしてから、また、原っぱへかけこんで、さっきのしげみの中へ身をかくしました。 そこには、ぬぎすてたマントや、角のはえたかつらや、もう一つ、べつの変装服などといっしょに、ぬすみだした宝石ばこのふろしきづつみも、かくしてありました。 四十面相は、また、手ばやくじいさんの変装をといて、べつの服を着こみ、そこにあった、絵のぐ箱をひらいて、顔をつくりなおしました。 こんど、しげみから立ちあらわれたのは、りっぱな背広に、オーバーを着て、ソフトをかぶった紳士でした。 しゃれためがねをかけ、口ひげをはやしています。 紳士は、むらさき色のふろしきづつみをこわきにかかえて、道路に出ると、刑事たちが走っていったのとは反対のほうへいそぎ、にぎやかな大通りにくると、タクシーをよんで、そのまま、どこともしれず、ゆくえをくらましてしまいました。 それから十分もすると三人の刑事たちは、がっかりしたようすで淡谷邸へ帰ってきました。 こうもり男を見うしなってしまったので、淡谷さんのうちから警視庁へ電話をかけ、東京じゅうに非常線をはってもらうためです。 三人が、門をはいって、げんかんのほうへ歩いていますと、むこうの庭の木立ちのあいだに、黒い人かげが、ちらちら動いているのに気づきました。 「なんだろう! へんなやつがいるぞ。 いってみよう。 」 三人は、そのまましおり戸をあけておく庭のほうへ、はいっていきました。 「おい、まてッ。 きみは、なにものだッ。 」 人かげにおいついて、いきなり、どなりつけますと、そいつは、ハッとしたように立ちどまったので、刑事のひとりが、うしろからとびかかって、だきすくめてしまいました。 あいては、なんの手むかいもしません。 だきすくめられたまま、じっとしています。 それに、女のように、なよなよしたからだです。 「きさま、四十面相の手下だろう。 こんなところで、なにをしていたんだッ。 」 ひとりの刑事が、前にまわって、懐中電灯の光をさしつけました。 こどものような、こがらなやつです。 ぼうしをまぶかにかぶり、だぶだぶの背広に、灰色のズボンをはいて、こわきに、マフラーでつつんだ、四角なものをかかえています。 刑事たちは、その四角なつつみを見ると、「アッ。 」と、小声に叫びました。 それは、宝石ばことそっくりの形をしていたからです。 刑事たちの胸に、おそろしいうたがいがわきおこりました。 四十面相のやつ、逃げたとみせかけて、じつは、ここにかくれていたのではないでしょうか。 変装の名人ですから、こんな小男にでも化けられるのかもしれません。 なににしても、マフラーにつつんだ四角なはこを、あらためて見なければなりません。 ひとりの刑事が、いきなりそのつつみをひったくって、ひらいてみました。 「アッ、やっぱりそうだッ。 」 それは、ピカピカ光る黄金のはこでした。 ふたにかぎがかかっているので、あけて見ることはできませんが、話にきいた宝石ばこにちがいありません。 「きさまッ、四十面相だなッ。 それとも……。 」 刑事たちがつめよりますと、その男は、ひょいと顔をあげて、にこにこ笑いました。 まっ黒によごれていますが、なんだか女のような、やさしい顔つきです。 四十面相が、こんなやさしい顔に化けられるのでしょうか。 「あたし、ちがいます。 」 その男は、女の声で答えました。 「なんだと、四十面相か、その手下でなくて、どうしてこの宝石ばこを持っているんだ。 女のような声を出して、ごまかそうとしたって、その手はくわないぞッ。 」 刑事がしかりつけますと、あいては、こんどは、声をたてて笑いだしました。 「ホヽヽヽ……、あたし、ほんとうの女なのよ。 小林さんと相談して、男に変装して、ずっとまえから、この庭の中にかくれてたんです。 あたし、明智探偵の助手の花崎マユミっていうんです。 」 「エッ、なんだって?」 刑事たちは、めんくらってしまいました。 「小林さんは、まだうちの中にいるんでしょう。 あの人を呼んでくださればわかりますわ。 おなじ明智先生の助手なんですもの。 」 うそをいっているようにも見えませんので、ひとりの刑事が、うちの中へかけていって、小林少年をひっぱってきました。 そのあとから、淡谷さんと、ほんものの一郎青年と、スミ子ちゃんまでついてきました。 スミ子ちゃんは、この夜ふけでもまだ眠らないで、おとうさんのそばにくっついていましたが、刑事から、庭にマユミさんがいるときいて、もうじっとしていられなくなり、おとうさんをひっぱるようにして、ここへ出てきたのです。 「アッ、マユミさん。 そうです、この人は明智探偵の助手のマユミさんにちがいありませんよ。 」 小林少年が刑事たちに、きっぱりといいきりました。 「やっぱりそうだったのか。 で、この宝石ばこは、どうして……。 」 刑事が、ふしんらしくたずねますと、マユミさんが、はきはきしたくちょうで説明しました。 「二時間ほどまえ、小林さんから電話があって、この庭へしのびこんで、書斎の窓の外をよく注意しているようにたのまれたのです。 刑事さんたちには、ないしょでかくれていたのです。 書斎をのぞいていると、小林さんがいなくなり、それから、淡谷さんも部屋の外へ出ていかれ、あとには一郎さんひとりになりました。 じっと、のぞいていますと、一郎さんが金庫をひらいて、むらさきのふろしきづつみを取りだしたではありませんか。 四十面相が一郎さんに変装していることは、小林さんにきいて、ちゃんと知っていました。 それから、にせの一郎さんが、宝石ばこのふろしきづつみを持って、窓をひらき、庭へとびだしてきたので、あたしはいそいで木のかげに身をかくしました。 にせの一郎さんは、大いそぎで窓の近くの、こんもりとしげった木のかげに、ふろしきづつみをかくすと、そのまま、窓から書斎に帰りました。 そして、なにくわぬ顔をして、一郎さんになりすましているのです。 そこへ淡谷さんが、どこからか書斎へもどってこられました。 そのとき、あたしは、うまいことを考えついたのです。 宝石ばこは二重になっていると聞いていました。 ふつうのはこの中に、黄金のはこがはいっているのです。 それで、中の黄金のはこだけをとりだして、外ばこをふろしきにつつんでおけば、四十面相は気がつかないで、からっぽのはこを持って、逃げだすだろうと思ったのです。 でも、めかたがかるくてはさとられますから、黄金のはこを出して、そのかわりに、庭に落ちていた石をいれておきました。 それから、あの大さわぎがおこったのです。 四十面相は、窓からとびだして、しげみにかくしておいたむらさきのふろしきの結びに、うでをとおして、両手をつかって、つなをのぼっていったのです。 あたしは、それをとめることはできませんでした。 大いそぎで、庭のどこかにいる刑事さんたちをさがしにいきましたが、それといきちがいに、刑事さんたちは、窓の外へきて、屋根の上の四十面相を見つけられたのです。 それから四十面相は、ぶらんこのしかけで塀の外へ逃げ、刑事さんたちがそのあとを追いましたが、あたしは、とてもつかまらないだろうと思いました。 いまに刑事さんたちは、手ぶらで帰っていらっしゃるだろうと、じつはそれをお待ちしていたのです。 四十面相は逃がしても、宝石ばこさえとりもどせば、刑事さんたちのもうしわけがたつだろうと思ったのです。 では、淡谷さん。 このはこの中をよくおしらべになってみてください。 」 そういって、マユミさんは、刑事の手から黄金のはこをうけとり、それを淡谷さんに手わたすのでした。 淡谷さんは、ポケットからかぎを出して、その場で、はこのふたをひらいてみますと、そこにはビロードの台座の上に、二十四個の宝石が、さんぜんとかがやいていました。 一つもなくなってはいないのです。 「ありがとう、マユミさん。 おれいをいいますよ。 」 淡谷さんが、きたない男すがたのマユミさんの手をにぎりました。 「おねえさま、ありがとう!」 そばにいたスミ子ちゃんも、マユミさんにとりすがるようにして、おれいをいうのでした。 さて、それから一月ほどたったある日のことです。 淡谷さんの近くの、ひろい原っぱのしば草の上にこしをおろして、ふたりのかわいい少女が話をしていました。 午後四時ごろです。 よいお天気で、空には雲ひとつなく、西にかたむいた太陽が、まださんさんとかがやいていました。 しば草からは、かげろうが、ゆらゆらとたちのぼっています。 ふたりがこしをおろしている前には、まばらな林があって、そのむこうに、あの時計塔がそびえていました。 その屋根の上に、ぶきみなこうもり男が立ったことのある、あの時計塔です。 時計塔の下には、むかし有名な時計屋さんがたてた、お城のような西洋館があります。 淡谷一郎青年が、四十面相のためにとじこめられた部屋も、その西洋館の中にあるのです。 時計塔をながめながら話をしている少女のひとりは、中学一年生の淡谷スミ子ちゃんでした。 明智探偵の助手のマユミさんのお弟子になった、少女探偵のスミ子ちゃんです。 もうひとりの少女は、やっぱり中学一年の、園田ヨシ子ちゃんです。 ヨシ子ちゃんのおとうさんの園田さんは、たいへんなお金持ちで、ふうがわりなこのみを持ったかたでした。 ある時、時計塔の西洋館を見て、そのお城のような古風なつくりかたが、すっかり気にいってしまい、西洋館を買いとって、そこに住むことになったのです。 西洋館の外がわは、れんがのこわれたところなどに、すこし手入れをさせたばかりで、だいたいそのままにしておき、中のたくさんの部屋は、すっかりなおさせて、住みごこちのよいようにしたのです。 時計塔の大時計の機械も専門家にたのんでなおしてもらい、時計が動くようにしました。 そうして、すっかり手入れができると、園田さんの一家は、西洋館へひっこしをしてきました。 それが、今から一週間ばかりまえのことなのです。 園田さんには、三人の子どもがありました。 ヨシ子ちゃんの上に、高校生のにいさんと、下に小学生の弟がいるのです。 ヨシ子ちゃんは、淡谷スミ子ちゃんとおなじ中学へ転校しましたので、ふたりはすぐに仲よしになってしまいました。 きょうは、スミ子ちゃんのほうから、園田さんの西洋館へあそびにきて、その帰りに、ヨシ子ちゃんとふたりで、原っぱでやすんで、話をしていたのです。 スミ子ちゃんは、その時はじめて、四十面相のことを話しました。 ヨシ子ちゃんを、こわがらせてはいけないと思って、今までいわないでいたのですが、とうとう、がまんができないで、宝石をぬすまれかけた事件を、うちあけてしまったのです。 すると、ヨシ子ちゃんは、へいきな顔で、こんなことをいいました。 「その話は、おとうさまから聞いて、知っていてよ。 あの西洋館を買うとき、みんなが、おとうさまに、およしなさいといったの。 きみがわるいから、およしなさいといったのよ。 でもおとうさまは、そんなお化けやしきなら、なおおもしろいとおっしゃって、へいきでお買いになったわ。 それから、工務所のだいくさんたちが、中をすっかりなおしたんですもの、あやしいやつがいるはずはないわ。 おかあさまもわたしも、ちっとも、こわくなんか思わないのよ、お化けが出たら、おもしろいわ。 」 それをきくと、スミ子ちゃんは、すっかり感心してしまいました。 ヨシ子ちゃんはなんて強い子でしょう。 この子なら少女探偵のなかまにいれてもいいと思いました。 「わたしね、名探偵明智小五郎のお弟子なのよ。 」 スミ子ちゃんは、ふたりの友だちといっしょに、マユミさんのお弟子になったこと、明智探偵にも、いろいろおそわっていること、小林少年のことなどを、くわしく話してきかせました。 「まあ、すてき。 わたし、明智先生は、まえからすきなのよ。 そんけいしているわ。 わたしも、お弟子になりたいわ。 」 「じゃ、話してあげましょうか。 マユミさんにおねがいすれば、きっと、いいっておっしゃるわ。 ね、少女探偵のなかまにはいらない?」 「ええ、いれて。 明智先生や、小林さんにあえるかと思うと、わたし、むねがどきどきするわ。 」 ふたりは、夢中になって話していましたので、目の前の時計塔に、みょうなことがおこっているのを、その時まですこしも気がつきませんでした。 最初にそれに気づいたのは、スミ子ちゃんでした。 時計塔の屋根の上に、なにか赤いものがひっかかっているような気がしたので、ひとみをさだめて、そのほうを見たのです。 「アラッ、ヨシ子ちゃん、ごらんなさい。 あれ、なんでしょう? きみがわるいわ。 」 「まあ、あんなところに、あれ、道化師よ。 わたし、知らないわ。 うちに、あんなものいないわ。 」 ヨシ子ちゃんも、びっくりして目をみはりました。 いかにも、それはひとりの道化師でした。 まっ赤なとんがり帽子、まっ白におしろいをぬった顔、まっ赤な 地色 ( じいろ )に、白い水玉もようのある、だぶだぶの道化服、その赤い道化師が、時計塔のとんがり屋根のてっぺんに立って、 避雷針 ( ひらいしん )のながい棒につかまっているのです。 遠いので、顔の表情はわかりませんが、なんだか、こちらをむいて、笑っているようです。 「へんだわ、あんな道化師なんて、うちにいないわ。 どこから来たのでしょう。 どこからのぼったのでしょう。 」 ヨシ子ちゃんは、おびえたように、スミ子ちゃんの手をにぎるのでした。 やがて、いっそうへんてこなことがおこりました。 道化師は、するすると避雷針のてっぺんまで、のぼっていったのです。 それから、まるで曲芸師のように、避雷針の先の、するどい剣におなかをつけると、両手、両足をはなして、うつむきになり、くるくるくると、からだを回しはじめました。 まるで、ぼうの先に、かめの子をのせたようなかっこうです。 「アラッ、あんなことして避雷針の先が、おなかにささってしまうわ。 」 「きっと、おなかに鉄の帯をしめているのよ。 その鉄にくぼみができていて、そこへ避雷針の先があたっているのよ。 いつか、サーカスで、ああいうの見たことあるわ。 」 まっ赤な道化師は、大の字にのばした手足で、うまくちょうしをとりながら、だんだん早く回ります。 くるくる、くるくる、美しい風車のようです。 ああ、もう道化師のすがたも見えないほど、はやくなってきました。 ただ、まっ赤なものが、目にもとまらぬはやさで回っているのです。 「わたし、こわいわ。 恐ろしいことのまえぶれかもしれないわ。 おうちへ帰って、おとうさまに知らせて、しらべていただくわ。 」 「ええ、それがいいわ。 わたし、おおくりするわ。 」 ふたりの少女は、立ちあがると、手をつないで、林の中へかけこみました。 園田さんの西洋館は、その林のむこうにあるのです。 いきせききって西洋館にたどりつき、時計塔を見あげますと、いつのまにおりたのか、もう道化師のすがたは見えませんでした。 「あら、もう、いなくなったわ。 どこへいったんでしょう。 」 「おうちの中へしのびこんだのかもしれなくってよ。 早くおとうさまに知らせるといいわ。 もし、手だすけがいるようだったら、わたしのうちへ電話してくださいね。 うちには、おとうさまも、おにいさまもいらっしゃるから。 じゃ、わたし、帰るわ。 さようなら。 」 スミ子ちゃんは、そういって、もときたほうへかけだすのでした。 スミ子ちゃんは、林の中をかけるように歩いていました。 いつかこうもり男があらわれたのと、おなじ時計塔の屋根に、こんどは赤い道化師があらわれたのです。 なにか恐ろしいことの、まえぶれにちがいありません。 そう思うと、ひっこしてきたばかりのヨシ子ちゃんが、かわいそうになりました。 ヨシ子ちゃんのおうちに、恐ろしいことがおこるかもしれないからです。 「やっぱり、あの西洋館は、お化けやしきだわ。 いくらだいくさんが手入れをしても、どこかに、お化けがのこっているのだわ。 おお、こわい!」 スミ子ちゃんは、そんなことを考えながら、すたすたと歩いていました。 すると、むこうの木のかげから、ひょいと、まっ赤なものがあらわれたではありませんか。 ギョッとして立ちどまりました。 あいつです。 あいつです。 さっき避雷針の上で、ぐるぐる回っていた、赤い道化師です。 逃げようとしましたが、もうまにあいません。 赤い道化師は、つかつかと、スミ子ちゃんのそばによってきました。 「エヘヘヘヘ……。 あんた、淡谷スミ子ちゃんですね。 ぼくは、サーカスの道化師ですよ。 曲芸もうまいし、手品もじょうずですよ。 エヘヘヘ、ぼくのサーカスを見にきませんか。 ついこの近所にかかっているのです。 特等席で見せてあげますよ。 ねえ、いらっしゃいよ。 まだ、ばんごはんまでには、たっぷり時間があるんだから。 帰りは、おうちまでおくってあげますよ。 」 まっ白におしろいをぬった顔。 ほおには、赤いえのぐが、日のまるのようにぬってあります。 つけまつげをしているとみえて、おそろしく長いまつげです。 かわいいお人形の目のようです。 くちびるも、まっ赤にぬっています。 そのまっ赤な口をひらいて、「エヘヘヘ……。 」と、いやらしく笑っているのです。 「わたし、ごようがあるから、おうちへ帰ります。 」 スミ子ちゃんは、こわいのをがまんして、きっぱりとことわりました。 「そんなこといわないで、見にいらっしゃいよ。 すばらしいサーカスですよ。 象とあざらしとお猿が芸をしますよ。 空中サーカスもすてきですよ。 ね、いきましょうよ。 すぐそこに自動車が待たせてあります。 あれに乗れば、すぐですよ。 」 ほおとくちびるの赤い、まっ白な顔が、ヌウッと、スミ子ちゃんの顔の前に近づいてきました。 たばこくさい、あたたかい息がかかりました。 まつげの長い、大きな目が、ぎらぎらと光って、まるで催眠術でもかけるように、スミ子ちゃんの目を、みつめています。 スミ子ちゃんは、猫にみいられた 鼠 ( ねずみ )のように、もう、身うごきができなくなりました。 林のむこうの原っぱには、人っ子ひとり見えません。 原っぱのむこうには、大きなやしきが、ぽつん、ぽつんと立っているばかりで、人通りもないのです。 いくら叫んでも、だれも助けにきてくれるものはありません。 うしろのヨシ子ちゃんの西洋館からも、百メートルもはなれています。 それに、あのあつい壁の窓の小さいたてものですから、叫び声が聞こえようとも思われません。 でも、スミ子ちゃんは、叫ばないではいられませんでした。 「だれかきてえ……、たすけてえ……。 」 すると、道化師の手ぶくろをはめた手が、バアッと顔の前にきて、スミ子ちゃんの口をおさえてしまいました。 「声をたてるんじゃない。 声をたてると、いたい思いをしなけりゃならないぞ。 さあ、こっちへくるんだ。 おもしろいサーカスを見せてやるからな。 」 道化師は、スミ子ちゃんをだきあげて、いきなり走りだしました。 原っぱをよこぎると、そこのさびしい道路に、一台の自動車が待っていました。 道化師は、その自動車の後部席へスミ子ちゃんをほうりこみ、自分もあとからはいって、ばたんとドアをしめ、 「うまくいった。 いそぐんだッ。 」 と、運転手に声をかけました。 この運転手も道化師のなかまのものにちがいありません。 「これから町を走るからな、すこし、きゅうくつな思いをしてもらわなけりゃならない。 ちょっとのしんぼうだよ。 」 そんなことをいいながら、道化師は、大きなハンカチをまるめて、スミ子ちゃんの口の中へおしこみ、その上から、てぬぐいのようなきれで、口をしばってしまいました。 それから、もう一本、黒いてぬぐいのようなきれを出して、スミ子ちゃんに目かくしをしました。 「手が自由じゃ、目かくしをとれるからな。 ついでにこれもしばっておけ。 」 そんなことをいいながら、スミ子ちゃんの両手をひとつにして、ひもを、ぐるぐる巻きつけるのです。 目かくしをされたので、もうなんにも見えません。 自動車は、おそろしいいきおいで走っていきます。 右に左に、町かどをまがって、どこまでも走っていきます。 スミ子ちゃんには、いま、どのへんを走っているのか、けんとうもつきません。 三十分も走ったかと思うころ、やっと車がとまりました。 「さあ、ついたよ。 これから、うちの中へはいるのだが、目かくしをしていては歩けないだろうから、ぼくがだっこしてやるよ。 」 道化師はそういって、スミ子ちゃんを車からだきおろすと、そのまま、どこかのたてものの中へはいっていくように思われました。 戸をあけたり、しめたりする音が聞こえました。 それから、階段をおりたような感じです。 すると、ゆくさきは地下室なのでしょうか。 なんだか、せまい廊下のようなところをしばらくいきますと、また重い戸をひらく音。 それは、西洋ふうのドアではなくて、よこにひく日本ふうの戸のように思われました。 ひえびえとして、かびくさいにおいが、鼻をうちました。 やっぱり地下室のようです。 「さあ、ここだ。 とんだまっ暗なサーカスだが、ここで空中曲芸の夢でも見るがいい。 」 道化師は、目かくしとさるぐつわを、とってくれました。 見ると、コンクリートの壁にかこまれた天井のひくい、せまい部屋です。 むこうのすみに長いすがおいてあり、その上に毛布がまるめてあります。 電灯はなくて、一本のろうそくが、ゆかに立ててあるばかりです。 その赤ちゃけたろうそくの光が、道化師の顔を、下のほうから照らしています。 顔のかげが、ふつうとぎゃくになって、なんともいえない、きみわるさです。 ながいまつげが、まぶたにかげをうつし、口からあごにかけては、まっ白に見え、口から上は、鼻のあたまと、ほおぼねのほかは、暗いかげになっています。 そのかげの中に、大きな目玉が、ギョロッと光っているのです。 お化けのように恐ろしい顔です。 そのお化けが、どす黒く見えるあついくちびるを、ぱくぱくと動かして、こんなことをいいました。 「おまえは、しばらくここにいるんだよ。 べつに、ひどいめにあわせるわけじゃない。 ちょっとばかり もくろみがあって、おまえを、ここにかくしておくのだ。 ベッドはないが、あそこに、ふっくらした長いすがある。 毛布も用意しておいた。 あの上で、ゆっくり寝るがいい。 手あらいは、そこのカーテンのむこうだ。 水もたっぷり用意してある。 また、ろうそくの箱とマッチは、長いすのそばにおいてある。 おなかがすく心配もない。 三度三度、ちゃんと食事をはこんでやるからな。 まあ、サーカスの夢でも見て、ゆっくり、寝ているがいい。 」 道化師は、しんせつらしく、それだけのことをいいおわると、にやにやと笑って、部屋を出ていきました。 がらがらッと、重い戸のしまる音。 カチンとかぎをかける音。 あとは、しいんとしずまりかえって、まるで墓場の中にとじこめられたようなさびしさです。 スミ子ちゃんは、いくらさびしくても、道化師がそばにいるよりはましだと思いました。 「なぜ、わたしを、こんなところへとじこめたのでしょう。 」 いくら考えても、わけがわかりません。 スミ子ちゃんは、長いすのところへいって、それにこしかけました。 あんがい上等のクッションで、ふかふかしています。 スミ子ちゃんは、こしかけたひざの上にひじを立てて、ほおづえをつき、じっと考えにしずみました。 その時、部屋のすみの床に、なにか、チラッと動いたものがあります。 「オヤッ。 」と思って、よく見ると、それは一ぴきのねずみでした。 人がいてもへいきで、チョロチョロと、こちらへ歩いてきます。 そのあとから、また一ぴき、そして、また一ぴき、そこの小さな穴から、四ひきのねずみが、はいだしてきました。 それを見ると、スミ子ちゃんは、思わず長いすの上にとびあがり、「キャアッ!」と、ひめいをあげないではいられませんでした。 こちらはヨシ子ちゃんです。 西洋館に帰りましたが、いまわかれたスミ子ちゃんのことが、心配でしかたがないものですから、大いそぎで、時計塔の大時計の下の部屋までのぼっていって、そこの小さな窓から、原っぱのほうをながめました。 原っぱのてまえに、まばらな林があり、その林の中をスミ子ちゃんが歩いていくのが見えます。 百メートルもへだたっているので、スミ子ちゃんは、お人形のように小さく見えているのです。 ヨシ子ちゃんは塔の部屋の窓にもたれて、じっとスミ子ちゃんのうしろすがたをながめていましたが、ふと気がつくと、林の中にまっ赤なものがあらわれて、スミ子ちゃんに近づいてくるではありませんか。 「アッ、さっきの道化師だわ。 あらッ、スミ子ちゃんをつかまえて、なにかいっている。 ああ、どうしたらいいんでしょう。 スミ子ちゃんを、どっかへつれていくわ。 」 ヨシ子ちゃんは、そこへとんでいって助けたいと思いましたが、百メートルいじょうも、むこうなので、塔をかけおりても、とてもまにあうわけがありません。 「アッ、道化師が、スミ子ちゃんをだきかかえて、走っていく。 ああ、どうしましょう。 だれか原っぱを通りかからないかしら。 そして、スミ子ちゃんを、助けてくれないかしら。 」 ヨシ子ちゃんは、じだんだをふむようにして、やきもきしましたが、塔の上からでは、どうすることもできません。 見ると、原っぱのむこうに、一台の自動車がとまっていて、スミ子ちゃんをかかえた道化師は、その自動車に近づいていきます。 そして、スミ子ちゃんは、その自動車の中へつれこまれ、ばたんとドアがしまると、車はそのまま、どこともしれず走りさってしまいました。 ヨシ子ちゃんは、そこまで見とどけると、大いそぎで塔の階段をかけおり、電話のある部屋に走りこむと、すぐに、淡谷さんのうちをよび出しました。 「もしもし、わたし、園田ヨシ子です。 スミ子ちゃんがたいへんです。 おかあさまか、おにいさまに、お話したいのですが。 」 すると、おかあさまが、電話に出てこられました。 「おばさま、たいへんです。 スミ子ちゃんが、いま、道化師につかまって、自動車に乗せられてどっかへつれていかれました。 自動車は原っぱから南のほうへ走っていきました。 でも、車の番号は読みとれなかったのです。 」 スミ子ちゃんのおかあさんは、それを聞くと、びっくりして、いろいろおたずねになりましたので、ヨシ子ちゃんは、さっきからのことを、くわしく話しました。 淡谷さんのおうちでは、それから大さわぎになり、ちょうどおとうさんも、にいさんの一郎さんも、会社から帰っていましたので、すぐに、一一〇番と明智探偵事務所とへ電話をかけ、スミ子ちゃんの捜索をたのみました。 やがて、東京じゅうに非常線がはられ、かたっぱしから、自動車がしらべられましたが、道化師とスミ子ちゃんの乗っている車は、いつまでたっても、見つからないのでした。 その夜のことです。 園田ヨシ子ちゃんは、西洋館の自分の寝室のベッドの上に、よこになっていましたが、スミ子ちゃんのことが心配で、なかなか眠れません。 うとうとしたかと思うと、恐ろしい夢を見て、はっと目がさめるのです。 時計を見ると、もう夜中の十二時をすぎていました。 「アラッ、どこかで、人の声がしているわ。 」 びっくりして、耳をすましました。 ずっと遠くのほうから、かすかな、かすかな声が聞こえてくるのです。 「こわいッ! 助けてえ……、はやく、だれかきて……。 」 聞きとれないほどかすかな声ですが、たしかに、どこかで女の子が、助けをもとめているのです。 ヨシ子ちゃんは、ベッドからとびだして、窓をひらいてみました。 外には、まっくらな夜がひろがっています。 もう、なにも聞こえません。 窓をひらいたとたんに、声がしなくなったのです。 へんだなと思って、窓をしめてベッドのそばへもどってきますと、また、どこからか、かすかな、かすかな声が聞こえてくるではありませんか。

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