雪のいと高う降りたるを 現代語訳。 「枕草子:雪のいと高う降りたるを」の現代語訳(口語訳)

枕草子雪のいと高う降りたるを299段品詞分解

雪のいと高う降りたるを 現代語訳

『枕草子』の現代語訳:143 『枕草子』の現代語訳:143 清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた 『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。 『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。 このウェブページでは、『枕草子』の『雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子まゐりて~』の部分の原文・現代語訳を紹介します。 参考文献 石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫) スポンサーリンク [古文・原文] 284段 雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子まゐりて、炭櫃(すびつ)に火起こして、物語などして集り侍ふに、(宮)「少納言よ、香爐峯(こうろほう)の雪、いかならむ」と、仰せらるれば、御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、笑はせたまふ。 人々も、「さる事は知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそ寄らざりつれ。 なほ、この宮の人には、さべきなめり」と言ふ。 285段 陰陽師(おんみょうじ)のもとなる小童(こわらべ)こそ、いみじう物は知りたれ。 祓へ(はらえ)などしに出でたれば、祭文(さいもん)など読むを、人はなほこそ聞け、ちうと立ち走りて、「酒、水、いかけさせよ」とも言はぬに、しありくさまの、例知り、いささか主に物言はせぬこそ、羨しけれ。 さらむ者がな、使はむとこそ、おぼゆれ。 楽天AD [現代語訳] 284段 雪がとても高く降り積もっているのに、いつものようではなく御格子を下ろしたまま、炭櫃(すびつ)に火を起こして、女房たちが会話などをして集まって侍っていると、(宮)「少納言よ、香爐峯(こうろほう)の雪は、どのようなものでしょう」と、おっしゃられるので、御格子を上げさせて、御簾を高く上げた所、中宮様はお笑いになられる。 人々も、「そんな事はみんな知っており、歌などにも歌っているけれど、(すぐに御簾を上げるという機転は)思いも寄らなかった。 やはり、この中宮様に仕える女房としては、然るべき教養を備えた人のようだ」と言う。 285段 陰陽師(おんみょうじ)の所で使われている小さな子供は、とてもよく物事を知っている。 祓へ(はらえ)などをしに河原に出ると、陰陽師が祭文(さいもん)などを読むのを、人は適当に聞いているのだが、その子供は素早く立ち走って、「酒、水、などをかけさせよ」とも言わないうちに、それをやってしまう様子が、作法に通じていて、主人に少しも余計な言葉を言わせないところが、羨しいものである。 そういった者がいないだろうか、使ってみたいなと、思うのである。 スポンサーリンク [古文・原文] 286段 三月ばかり、物忌(ものいみ)しにとて、かりそめなる所に、人の家に行きたれば、木どもなどのはかばかしからぬ中に、柳といひて例のやうになまめかしうはあらず、葉広く見えてにくげなるを、(清少納言)「あらぬ物なめり」と言へど、「かかるもあり」など言ふに、 さかしらに 柳のまゆの ひろごりて 春の面(おもて)を 伏する宿かな とこそ、見ゆれ。 そのころ、また、同じ物忌しに、さやうの所に出でたるに、二日といふ日の昼つ方、いと徒然(つれづれ)まさりて、ただ今も参りぬべき心地するほどにしも、おほせ言のあれば、いとうれしくて見る。 浅緑(あさみどり)の紙に、宰相の君、いとをかしげに書い給へり。 「いかにして過ぎにし方を過(すぐ)しけむ暮しわづらふ昨日今日かな となむ。 私には、今日しも千年(ちとせ)の心地するに、暁には、疾く(とく)」とあり。 この君ののたまひたらむだに、をかしかべきに、まして、おほせ言のさまは、おろかならぬ心地すれば、 (清少納言)「雲の上も 暮しかねける 春の日を 所からとも ながめつるかな 私には、今宵のほども、少将にやなり侍らむとすらむ」とて、暁にまゐりたれば、(宮)「昨日の返し、『かねける』いとにくし。 いみじうそしりき」と、仰せらるる、いとわびし。 誠にさることなり。 楽天AD [現代語訳] 286段 三月の頃、物忌(ものいみ)のために、仮の宿として、人の家に行ったところ、庭の木などが立っていてあまり良い木も無い中で、柳というけれど、普通の柳のように上品ではなく、葉が広く見えて見た目が良くないものを、(清少納言)「柳ではないでしょう」と言うけれど、「このような柳もある」などと言うので、 さかしらに 柳のまゆの ひろごりて 春の面(おもて)を 伏する宿かな(小ざかしく柳の木の葉が広がって、春の景色を隠してしまっている宿であるな) と、歌を詠んだ。 その頃、また、同じ物忌のために、そうした所に退出すると、二日目のお昼頃、とても退屈な気持ちが強くなってしまって、今すぐにも参上したい気持ちになっていたその時、中宮様からのお手紙がきたので、とても嬉しい気持ちで読んだ。 浅緑色の紙に、宰相の君が、とても綺麗な筆跡で書いておられる。 「いかにして過ぎにし方を過(すぐ)しけむ暮しわづらふ昨日今日かな(どのようにして今まで過ごしているのですか。 あなたがいない日々の暮らしを寂しく思っている昨日今日なのです) という歌が詠んである。 私と致しましても、今日はもう千年(ちとせ)を過ごすような気持ちですから、明日の明け方には、早く参上されて下さい」と手紙には書いてある。 宰相の君のお言葉だけでも面白いのに、まして、中宮様の歌の趣きは、おろそかにはできないという気持ちがするので、 (清少納言)「雲の上も 暮しかねける 春の日を 所からとも ながめつるかな(雲の上には長く暮らしかねます。 春の日をどこということもない所から眺めていただけですよ) 私と致しましては、今宵のうちにも、あの少将のようになってしまうのではないかという思いがします」と返事を書いて差し上げ、明け方に参上すると、(宮)「昨日の返事に書いてあった、『かねける』と言う言い方はとても憎たらしいものですね。 みんなでひどくその言い方を非難しました」と、おっしゃられるのが、とても悲しい。 本当にその通り(生意気な言い方)であるので。

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助動詞「む(ん)」の識別の解説

雪のいと高う降りたるを 現代語訳

雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子参らせて、炭櫃に火おこして、物語などして 雪がたいそう高く降り積もっているのに、いつもと違って御格子を下ろし申しあげて、角火鉢に火をおこして、話などして 雪 … 名詞 の … 格助詞 いと … 副詞 高う … ク活用の形容詞「高し」連用形(音便) 降り … 四段活用の動詞「降る」連用形 たる … 存続の助動詞「たり」連体形 を … 接続助詞 例 … 名詞 なら … 断定の助動詞「なり」未然形 ず … 打消の助動詞「ず」連用形 御格子 … 名詞 参り … 四段活用の動詞「参る」連用形 て … 接続助詞 炭櫃 … 名詞 に … 格助詞 火 … 名詞 おこし … 四段活用の動詞「おこす」連用形 て … 接続助詞 物語 … 名詞 など … 副助詞 し … サ行変格活用の動詞「す」連用形 て … 接続助詞 集まり候ふに、「少納言よ、香炉峰の雪いかならむ。 」と仰せらるれば、 集まってお仕えしていると、「少納言よ、香炉峰の雪は、どのようでしょう。 」とおっしゃるので、 集まり … 四段活用の動詞「集まる」連用形 候ふ … 四段活用の動詞「候ふ」連体形 に … 接続助詞 少納言 … 名詞 よ … 間投助詞 香炉峰 … 名詞 の … 格助詞 雪 … 名詞 いかなら … ナリ活用の形容動詞「いかなり」未然形 む … 推量の助動詞「む」終止形 と … 格助詞 仰せ … 下二段活用の動詞「仰す」未然形 らるれ … 尊敬の助動詞「らる」已然形 ば … 接続助詞 御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、笑はせ給ふ。 御格子を上げさせて、御簾を高く巻き上げたところ、お笑いになる。 御格子 … 名詞 上げ … 下二段活用の動詞「上ぐ」未然形 させ … 使役の助動詞「さす」連用形 て … 接続助詞 御簾 … 名詞 を … 格助詞 高く … ク活用の形容詞「高し」連用形 上げ … 上二段活用の動詞「上ぐ」連用形 たれ … 完了の助動詞「たり」已然形 ば … 接続助詞 笑は … 四段活用の動詞「笑ふ」未然形 せ … 尊敬の助動詞「す」連用形 給ふ … 四段活用の尊敬の補助動詞「給ふ」終止形 人々も「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそ寄らざりつれ。 人々も、「そのようなことは知り、歌などにまで歌うけれど、思いもよらなかったわ。 人々 … 名詞 も … 係助詞 さる … 連体詞 こと … 名詞 は … 係助詞 知り … 四段活用の動詞「知る」連用形 歌 … 名詞 など … 副助詞 に … 格助詞 さへ … 副助詞 歌へ … 四段活用の動詞「歌ふ」已然形 ど … 接続助詞 思ひ … 四段活用の動詞「思ふ」連用形 こそ … 係助詞(結び:つれ) 寄ら … 四段活用の動詞「寄る」未然形 ざり … 打消の助動詞「ず」連用形 つれ … 完了の助動詞「つ」已然形 なほこの宮の人には、さべきなめり。 」と言ふ。 やはりこの中宮様にお仕えする人としては、ふさわしい人のようね。 」と言う。

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『枕草子』の現代語訳:143

雪のいと高う降りたるを 現代語訳

ふと心劣りとかするものは(第195段) 【冒頭部】 ふと心劣りとかするものは、男も女もことばの文字 【現代語訳】 急に幻滅とかを感ずるものは、男でも女でも(はなし)ことばの用語を下品につかったこと(で、それ)は、何ごとにもまして、みっともないことだ。 ただ用語一つで、不思議に、上品にも下品にもなるのは、どういうわけだろうか。 とは言っても、こう思う人(つまり私)が、格別に(人より)すぐれているのでもあるまいよ。 (だから)どれがよい、どれが悪いと判断できるのであろうか(わかりはしない)。 けれども、他人のことはどうか知らないが、ただ自分の気持ちではそう思われるのである。 下品なことばも、みっともないことばも、そうと知りながらわざと言ったのは、悪くもない。 (が、)自分勝手にこじつけたことを、はばかりもなく言ったのは、あきれたことである。 また、そんな(悪いことばづかいをする)はずのない老人とか男などが、わざわざとりつくろって田舎びた言い方をするのは、いやらしい。 よくないことばも下品なことばも、相当の年輩の人は無遠慮に言うのを、若い人はたいそうきまり悪いことに思ってじっと聞いているのは、もっともなことである。 何を言うにしても、「そのことさせむとす<それは、そうしようと思う>」「言はむとす<言おうと思う>」、「何とせむとす<誰それとしようとする>」という「と」の字を略して、ただ「言はむずる<言おうと思う>」「里へいでむずる<実家に出ようと思う>」などと言うと、たちまちひどくいやに聞こえる。 まして、(そんなことばは)手紙に書いてみるとはとんでもない。 物語などは、まちがったことばづかいで書いてあると、どうしようもなく、作者までが気の毒に思われる。 「ひてつ車に」なんて言った人もあった。 「もとむ」ということを「みとむ」などとは、誰でも言うようである。 【語句】 心劣り・・・予想より劣って感じられること。 あやしう・・・不思議に。 あてにも・・・上品にも。 さるは・・・そうはいっても、しかし。 知るにかは・・・判断できるのであろうか。 つつみなく・・・はばかりもなく。 遠慮なく。 まさなき・・・よくない。 かたはらいたき・・・きまり悪いこと。 聞き苦しいこと。 さるべきこと・・・当然なこと。 もっともなこと。 あしう・・・悪いことばを用いて。 野分のまたの日こそ(第200段) 【冒頭部】 野分のまた日こそ、いみじうあはれにをかしけれ。 【現代語訳】 野分の吹いた翌日は、たいへんしみじみとして興趣深いものだ。 立蔀や透垣などが乱れて(倒れかかって)いるので、庭のあちこちの植え込みは、とても痛々しい。 大きな木々も倒れ、枝などの吹き折られたのが、萩や女郎花などの上に、横ざまに倒れ伏しているのは、じつに思いがけない。 組んである格子の一間一間などに、木の葉をわざとそうしたかのように、こまごまと吹き入れてあるのは、荒々しかった風のしわざとは思われない。 とても濃い色の衣服で表のつやが薄れているのに、黄朽葉色の織物や、薄物の小袿を着て、実直そうで見た目にきれいな人が、前夜は風の騒ぎで寝られなかったので、長いこと朝寝をして起きたままに、母屋から少し端近くに座ったままで進み出ている、(その人の)髪は風に吹き乱されて、少しけばだっているのが、肩にかかっている具合は、本当にすばらしい。 (その女が)しみじみと感に堪えたような様子で、外を眺めて、「むべ山風を」などと(この朝にふさわしい古歌を口ずさんで)言ったのも、情趣を解する人であろうと見えるのに、十七、八歳くらいであろうか、小柄ではないけれども、さほど大人っぽくに見えない女性が、正絹の単衣の、ひどく縫い糸が切れて、花色も色褪せて濡れなどしている着物の上に、薄紫色の夜着を引きかけて、髪はつややかで、こまやかにきちんと整い、髪の先もすすきの花のようにふさふさとして、背丈と同じくらいの長さであったので、着物の裾に隠れて、袴の折り目の端々から(その髪の先が)見えるのだが(その女性が)、(庭で)童女や若い女房たちが、根をつけたまま吹き折られている草木などを、あちこちで取り集めたり、起こし立てたりするのを、うらやましそうに簾を内側から外に押し張って、その簾に寄り添って(見て)いる後ろ姿も興趣がある。 【語句】 心苦しげなり・・・痛々しい。 心が苦しくなるような感じ。 まことしう・・・実直そうで。 うちふくだみたる・・・少しけばだって、ふくらんだような形にもり上がっているさま。 めでたし・・・賞美である・すばらしい。 見出す・・・内から外を見る。 色に・・・つややかで。 童べ・・・童女。 五月ばかりなどに山里にありく(第223段) 【冒頭部】 五月ばかりなどに山里ありく、いとをかし。 【現代語訳】 (陰暦)五月のころなどに、山里を(牛車で)あちこち行くのは、とても面白い。 草の葉も水もとても青くずっと一面に見えているが、表面は何ということもなくて(下に水があるという様子は見せないで)草が生い茂っている所を、長々とそのまま続けてまっすぐに行くと、(その下草の)下はなんともいえないほど清らかであった水で、(それが)深くはないけれども、供の人などが歩き進むにつれて水しぶきを上げているのは、とても面白い。 (道の)左右にある(家の)垣根にある、何かの木の枝などが、車の屋形などに入り込むのを、急いでつかまえて折ろうとするうちに、ひょいと(車が)行き過ぎて(手から)はずれたのは、まったく残念だ。 よもぎの牛車に押しつぶされていたのが、車輪が回っていくのにつれて、鼻先にちょっと香りが漂ってくるのも面白い。 【語句】 ありく・・・歩き回る。 あちこち動き回る。 見えわたる・・・ずっと見える。 一面に見渡せる。 つれなし・・・さりげない。 何げない。 ただざまに・・・ここでは。 まっすぐに。 ふと・・・ひょいと、ぐらいの意。 押しひしが・・・押しつぶす。 月のいとあかきに(第232段) 【冒頭部】 月のいとあかきに、川を渡れば、 【現代語訳】 月がたいへん明るい夜に(牛車に乗って)川をわたると、牛のあるくにつれて、水晶などが砕け散るように、川水がしぶきをあげて散ったのは、ほんとに興趣を感ずる。 【語句】 あかきに・・・明かるい夜に 川を渡れば・・・牛車に乗って川を渡ると 牛のあゆむままに・・・牛が歩くにつれて をかしけれ・・・興味を感じる 世の中になほいと心憂きものは(第267段) 【冒頭部】 世の中になほいと心憂きものは、人ににくまれんこと 【現代語訳】 この世の中で、なんといってもやはりたいへんつらいものは、人からにくまれることがそれであろう。 どのような気ちがいじみた人だからといって、だれが自分は人ににくまれたいなどと思おうか。 けれども、しぜん、奉公先きでも、親きょうだいの中においても、愛される愛されないがあるのはどうにもさびしいことだ。 身分教養もあるりっぱな人についてはいうまでもないが、身分の低いいやしい者でも、親などがかわいがっている子は注目せられ、評判されたたいせつに思われるものある。 その子が世話のしがいがある場合はいかにも道理で、これではどうしてかわいがらずにおられようかと思われる。 (反対にその子が)格別とりえもない子であるときは、また、この子をかわいいと思うのは親だからこそだとしみじみ感動させられる。 親にでも、仕える主君にでも、すべてを話したくなるような人にでも、そのあいての人にかわいがられ、好かれるということほどすばらしいことはあるまい。 【語句】 なほ・・・何といっても。 やはり。 物狂・・・変わり者。 わびしきや・・・どうにもならずさびしいことだ。 よき人・・・高貴な人。 身分も教養もある人。 さらなり・・・いうまでもない。 かなしうする・・・かわいがる。 いたはしう・・・たいせつに。 見るかひ・・・世話のしがい。 「見る」は、世話をする。 ことわり・・・当然。 あはれなり・・・しみじみと感動する。 大蔵卿ばかり(第275段) 【冒頭部】 大蔵卿ばかり耳とき人はなし。 まことに、蚊のまつげの落つるをも 【現代語訳】 大蔵卿様ほど耳の鋭い人はない。 実際、蚊のまつげの落ちる音をもお聞きになれるにちがいないほどであった。 (わたしが)中宮職の御曹司に住んでいたころ、大殿の新中将成信様が宿直でいらっしゃって、(わたくしが)なにか話していたとき、そばにいた人(女房)が、「あの中将様に扇の絵のことをいいなさい」と(わたしに)ささやいたので、「もうすぐ、あの君(大蔵卿)がお立ち去りになってからね」と、ほんとにこっそりその人にささやいたのを、その人(女房)さえ聞きつけることができないで、「なんですって、なんですって」と耳をかたむけて来るのに、(大蔵卿様は)遠くのほうにすわっていて、「にくらしい。 そのようにおっしゃるなら、今日は立ちますまい」とおっしゃたのには、どうして(あんな小さな声を)お聞きつけになるのであろうと、まったくあきれてしまったことだ。 【語句】 耳とき・・・耳のはやい。 耳の鋭い。 ささめけば・・・ささやいたので。 いま・・・おっつけ。 みそかに・・・ひそかに。 こっそり。 なにとか・・・なんですか。 あさましかりしか・・・まったくあきれてしまったことだ。 「あさまし」は、事の意外に驚きあきれる。 うれしきもの(第276段)~うれしきものまだ見ぬ物語の一を見て~ 【冒頭部】 うれしきものまだ見ぬ物語の一を見て、 【現代語訳】 うれしいもの。 まだ読んだことのない物語の第一巻を読んで、つづきを読みたいとばかり思っていたのが、そのあとの巻の見つかった、そんなとき。 ところで、それも(読んでみて)、かえってがっかりするばあいもあるものだ。 人が破り捨てた手紙を継ぎあわせて読んでいるとき、同じつづきの箇所を何行も見つけた。 どうであろうと思われる夢をみて、おそろしいことだとひやひやしているときに、格別のこともないように夢判断をしてくれたのは、ほんとにうれしい。 高貴な人の御前で、人々がおおぜい伺候している際、むかしあったことにせよ、また現在お聞きになった話でいま世間で評判していることにせよ、お話しあそばされるのに、自分のほうをご覧になり、注視なさって、仰せられるのは、まことにうれしい。 遠く離れたところにいる人はもちろんのこと、同じ京都の中に住んでいながらも離れていて、たいせつに思っている人が病気をしているのを聞いて、どうであろうか、どうであろうかなどと、気がかりなことを嘆いているおりに、全快したとのよし、知らせを聞くのも、たいへんうれしい。 自分が好意を寄せている人が、他の人からほめられ、とうとい方などが相当な者であるなどとお思いになり、そう仰せられること。 なにかのおりに詠んだ歌、または人と贈答した歌が評判になって、打聞などに書きいれられたばあい。 わたくし自身まだ経験のないことだけれども、やっぱり思いやられるよ。 それほどうちとけない人がいった故事・古歌などで、知らないのを聞き得たのもうれしい。 後で、本の中などで発見したのは、ただもうおもしろく、この本にあったのだなあと、そういった人が興味深く改めて感心される。 陸奥国紙でも、普通の紙でもりっぱなのを手に入れたばあい。 ふだんから尊敬している人が、(古)歌の上句や下句をたずね(られ)たとき、すぐに思い出せたのは、われながらうれしい。 いつも記憶している歌でも、改まって人がたずねるおりには、きれいさっぱりと忘れてしまっているばあいが多いものである。 急なことでさがしている物を見つけ出したの。 【語句】 一を見て・・・第一の巻を見て。 ゆかし・・・よみたい。 見たい。 知りたい。 奥ゆかしい。 さて・・・ところで。 いかならん・・・どうなのだろう。 どんなわけだろう。 よき人・・・貴人。 りっぱな人。 さらなり・・・もちろんのことである。 思ふ人・・・好意を寄せる人。 いたう・・・それほど。 きよう・・・きれいに。 さっぱりと。 とみにて・・・急なことで。 うれしきもの(第276段)~物合なにくれと挑むことに勝ちたる~ 【冒頭部】 物合なにくれと挑むことに勝ちたる、 【現代語訳】 (うれしいもの)物あわせなど、なにやかやと勝負する事に勝ったのは、どうしてうれしくないことがあろう。 また、我こそなどと思いあがって、得意顔でいる人をうまくだませたとき。 女どうしであるよりも、男(が相手の場合)は一段とうれしい。 このしかえしはきっとしようと思っているだろうと、絶えず気づかいされるのもおもしろいが、(相手は)いっこう平気で、なんとも思っていないようすで、(こちらを)油断させ通すのもまたおもしろい。 なにかのおりに艶を出すために衣をうたせにやって、どうであろうと心配しているとき、うつくしくできて手にしたのはうれしい。 刺櫛をつくりにやったところが、きれいにできたのもまたうれしい。 いく日、いく月もひどい病状が続いて、ずっと病みつづけていたのが、全快したのもうれしい。 自分の好意を寄せている人の身の場合は、自分自身のこと以上にうれしい。 (中宮の)御前に、人々が隙間もなくならんですわっているところに、いま上がったばかりのときは、すこし離れた柱のもとなどにすわっているが、その自分を、すぐにお見つけになって、「こちらへ」と仰せられるので、(女房たちが)道をあけて、すぐ御前近くまでめし入れられたのは、(ほんに)うれしいものである。 【語句】 なにくれと・・・何やかやと。 我は・・・自分こそは。 したり顔なる人・・・得意顔な人。 女どち・・・女どうし。 つれなく・・・何でもないようすで。 あしき目・・・ひどい目。 きよらにて・・・きれいに。 日ごろ・・・いく日も。 しきる事・・・きわだつこと。 目立つこと。 柱もと・・・柱のそば。 雪のいと高う降りたるを(第299段) 【冒頭部】 雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子まゐりて、 【現代語訳】 雪が非常に高く降りつもっているのに、いつもと違って御格子をおろして、炭櫃に火をおこして、物語などをして、女房たちが集まっておそばにひかえていると、「少納言よ、香炉峯の雪はいかがでしょう」と中宮様がおっしゃるので、御格子をあげさせて、御簾を高くまきあげたところ、中宮様はにっこりとお笑いになった。 ほかの女房たちも、「そんなことは知り、歌などにまでうたうけれど、とても思いつかないことだった。 やはり、この宮にお仕えする女房としては、ふさわしい人のようだ」と言った。 【語句】 雪のいと高う降りたるを・・・雪がたいへん深く降りつもっているのに 例ならず御格子まゐりて・・・いつもと違って御格子をおろして 炭櫃・・・居間に据えられた火鉢。 いろり。 集まりさぶらふに・・・女房たちが中宮のもとに集まりお仕えしていると さること・・・そういうこと 歌などにさへ歌へど・・・知っているだけでなく、そのうえ歌などにまでうたうけれども 思ひこそよらざりつれ・・・そんな機知ある行動は思いつかなかった この宮・・・中宮定子の御所 さべきなめり・・・然るべき方のようですね。 ふさわしい方のようですね。 この草子、目に見え(第319段)~この草子、目に見え~ 【冒頭部】 この草子、目に見え心に思ふ事を、人やは見んとすると思ひて、 【現代語訳】 この書物は、自分の目にうつり心に感じることを、よもや人が読む気づかいはないと思って、所在ない里住みの間に書き集めたのを、あいにく、人のためには具合いの悪い言い過ごしもしそうな個所個所もあるので、よくよく隠しておいたつもりだったのに、心ならずも世間にもれ出てしまったことである。 中宮様に、内大臣伊周公様がこの草子を献上なさったのだったが、そのおり中宮様が「この草子に何を言きましょう。 天皇様には『史記』という書物をお写しになっていらっしゃる」などとおっしゃいましたのを、私が「枕、それでございましょう」と申し上げたところ、「それならとりなさい」とご下賜になったのだったが、つまらぬすさびごとを、何やかやと、限りもなくたくさんある紙を全部描き尽くそうとしたために、われながらはなはだわからぬことが多いことよ。 【語句】 草子・・・綴じ本 人やは見んとする・・・まさか人など見るはずがない あいなう・・・おもしろくなく、困ったことに びんなき・・・不都合な いひすぐしもしつべき・・・言い過ごしもしそうな 心よりほかにこそ・・・心ならずも。 意外にも。 たてまつり給へりけるを・・・この草子を献上なさったのだが これになにを書かまし・・・この草子に何を書きましょう 枕にこそは侍らめ・・・枕、それでございましょう さば・・・それならば。 そんなら。 得てよ・・・とりなさい たまはせたりしを・・・下さいましたのを あやしきを・・・つまらぬことを よやなにやと・・・何やかやと つきせず・・・限りもない。 使いきれないほど。 ものおぼえぬ・・・自分でもわけのわからぬ この草子、目に見え(第319段)~おほかたこれは~ 【冒頭部】 おほかたこれは、世の中にをかしきこと、人のめでたしなど思ふべき、 【現代語訳】 だいたいこの書物は、世間でおこった興趣あるできごとや、世人がすばらしいと思いそうなことを特別に選び出して、歌のことでも、木・草・鳥・虫のことでも、いい出したのであったとしたら、「思った程でもない。 心の底が見えすいている」と悪口もいわれようが、実はただ自分だけの心に自然に思い浮かぶことを、たわむれに書きつけてきたのであるから、他の作品と肩をならべて、世間なみの評判を得るはずがあるものかと思ったのに、「よく書けていて感心する」などと読んだ人が批評なさるのであるから、まことに不思議なことであるよ。 なるほど、考えてみればそれも道理で、人がにくむことをことさらによいと言い、人がほめることをわざとそしる世間の人であるから、ほめる人の本心はうらはらであることが推察できるというものだ。 なんにしてもただ、人に読まれたというのは残念である。 左中将源経房様かまだ伊勢の守と申しあげたころ、私宅にいらっしゃったことがあった時、端のほうにおいてあった畳をさし出したところ、この冊子が畳に載ってそのまま出てしまったのであった。 あわてて取り入れたけれども、中将はそれをそのまま持っていらっしゃって、ずっと後、長いこと経て手もとに返って来たのであった。 それから後、世に流布しはじめたようである。 と原本に書いてある。 【語句】 おほかたこれは・・・だいたいこの書物は 世の中にをかしきこと、人のめでたしなど思ふべき・・・世間で興趣深いことと思われ、また人がすばらしいなどと思うようなことを。 ほ選り出でて・・・特に精選して 歌などをも・・・歌のことでも いひ出だしたらばこそ・・・いい出したとならば 心見えなり・・・心の底が見えすいているよ ただ心ひとつに・・・ただ自分ひとりの心に ものに立ちまじり・・・他の作品と肩を並べて 人なみなみなるべき・・・人なみ程度であるような 聞くべきものかは・・・聞くはずはない はづかしき・・・りっぱなものだ。 すばらしい。 し給ふなれば・・・批評なさるそうなので あやしうあるや・・・変な話だよ そもことわり・・・それも当然で おしはからるれ・・・推察することができるというものだ さし出でしものは・・・さしだしたところ、ほんにまあ あリきそめたるなめり・・・流布しはじめたようすである.

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